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2023年の印象に残った演技

気がつけば世間は年末モードで2023年が終わるという事実に頭が追いつかない。本当に365日も経過したとは思えない感覚が年々強まる中で今年も1年が終わろうとしている。今年の振り返りということで、個人的に印象的だった演技をいくつかあげていく。

 

2月  コトブス国際 LEVANTESI Matteo(ITA) 平行棒決勝の演技

平行棒の倒立の収め方や演技全体のリズムが個人的に好みで去年から注目していた選手で、昨年の世界選手権にも出場しており素晴らしい演技を披露していたがDスコアがあまり高くなかったこともあり、目立つような存在ではなかった。今年の2月に行われたコトブス国際で平行棒に出場。予選の映像はないがリザルトを見る限り従来通りの構成を実施して決勝進出。そして決勝の演技がこちら。

マクーツの滑らかさに目を奪われたかと思ったらその後のシャルロ〜単棒ヒーリー、ヒーリーの流れのスムーズさ、車輪ディアミドフの倒立の捌き、どれも最高である。予選のDが5.9で決勝でD6.5の爆上げにテンションが上がったが、調べると去年のコトブス国際でも似たような演技構成を実施していた。そのときは終末技を前方ダブルにしており転倒していたが、今回は後方屈身ダブルで演技をまとめ見事銀メダルを獲得。今年の世界選手権でも平行棒の種目別決勝に残っていたが、団体決勝、種目別決勝といい演技ができず残念な結果に終わってしまった。グループIIを減点が多そうなハラダで満たすのが個人的に謎。来年の活躍に大期待中。

 

5月 NHK杯 千葉健太 ゆかの演技

全日本選手権11位からNHK杯で4位にジャンプアップした千葉選手の最終種目ゆかの演技。こちらの記事で既に触れているので端折るが、あまり会話をしない塚原さん相手にわざわざ自慢しちゃう冨田さんの気持ちが大いに理解できる絶好調ぶり。演技はもちろん、最後のガッツポーズと笑顔がとても印象的。着地をすべて止めているのはもちろん凄いが(ゆかに限らずではあるが)着地時の足の開きが狭いのが非常に良い。今年の彼の快進撃の象徴といえる演技。

 

8月 ユニバーシティゲームズ KARIMI Milad(KAZ) 種目別決勝鉄棒の演技

こちらの映像にはないが、演技開始後すぐプロテクターが切れたため演技のやり直しが認められ、最終演技者として行ったのがこちらの演技。最初のカッシーナが少し近くはなったもののダイナミックに決め、続いてコバチ〜コールマンの組み合わせも成功、続くトカチェフの連続も成功し、最後の着地も腰が高い位置でまとめ14.800を出し優勝を飾った。昨年の世界選手権、冬場のワールドカップシリーズでも思うような演技ができず歯痒かったが、ゆかに続き鉄棒でも素晴らしい演技をやり切り良い結果を出せたことがとても嬉しかった。

それと現ルールに特化した演技構成も気になった。ひねり技はアドラー系のみで最低限とし、コバチ系とトカチェフの放れ技をそれぞれ2つないしは3つ入れて、さらに組み合わせ加点でDスコアを稼ぐ演技構成が結果的に得点を残しやすいというのが現ルールの特徴なのかなと思った。中国勢はアドラーハーフからコールマンの組み合わせで組み合わせ加点を稼いでいる。アジア大会での谷川翔選手はアドラーハーフすら入れずひねり技ゼロという極端な演技構成だが、結果それで種目別鉄棒で銅メダルを獲得した。日本は鉄棒のひねり技が得意な選手が多いが、こだわりを貫くか否か、来年に向けての対応をどうするのかが気になる。

 

9月 ワールドチャレンジカップ・フランス大会 WHITLOCK Max(GBR) あん馬決勝の演技

金メダルを獲得した東京オリンピック以降、表舞台に立つことはほぼなく実質2年ぶりの現場復帰となった大会。予選は映像がないが15.250の高得点を出し、そしてこの決勝の演技である。約2年間の休養を経て実施する演技構成がDスコア6.9と異次元級だが、ルール改正にもしっかり対応しており、すべての技がスムーズで淀みがなく流れるように演技が進みあっという間に終わってしまう感覚だった。演技内容は高難度のフロップやロシアン転向の技を多く含んでおり、旋回の回数が多くなってしまうので演技時間は比較的長い方だと思うがそんなことはまったく感じられなかった。15.450のハイスコアをマークし、復帰戦ではあったが見事優勝した。

 

10月 世界選手権 DAVTYAN Artur(ARM)  種目別決勝跳馬の演技(2本目)

ルール改正後、ドラグレスクとヨー2が別のグループになりこの2跳躍で跳馬の種目別に臨めるようになったことで水を得た魚のごとくご活躍しているダフチャン。2022年のワールドカップから無双状態でこのままパリまで突っ走るものかと思っていて、世界選手権でもいつもどおり予選をトップ通過し今回も優勝候補筆頭だった。

迎えた決勝、先に演技したJARMANがDスコア6.0のヨネクラ(20:13〜)を素晴らしい実施で成功させ決定点15.400をマーク、2本目のドラグレスクも成功しアベレージ15.050というハイスコアを叩き出した。Dスコア5.6を2本跳ぶダフチャンにとっては2本平均でEスコア9.450を出さなければ勝てないことになったが、予選で15.033を出している彼の実力をもってすれば不可能な数字ではなかった。しかし1本目のドラグレスク(32:36〜)で高さ、飛距離が共に足りず着地で大きく動いてしまった。Eスコア8.666、両足ラインオーバーでND−0.3、決定点は13.966。2本目で16.134以上が必要になりDスコア5.6を跳ぶダフチャンにとっては不可能な数字となってしまった状態でこのヨー2。

元々の技術力や安定感は言うまでもないが、これは意地とプライドで着地を止めたのではないのだろうか。感嘆のため息が漏れてしまうような跳躍で、結果Eスコア9.533が出た。1本目が予選どおりの実施であれば優勝だったわけだが所詮はタラレバ、1本目の失敗からこの2本目が出たわけで、今回の世界選手権で拝見できた全演技の中で最も印象に残った演技だった。演技を終え待機席で後続選手の演技を見守るライバル選手たちのリアクション、ダフチャンのヨー2を目の前で見ていながらもノーリアクションで自分の準備を行うクールなRADIVILOVの姿も良かった。

というわけで1本でも6.0を成功させれば十分優勝できる可能性を見出せた今回の跳馬の種目別。ジェイクの他にYULO Carlos Edriel、ASIL Adem、HONG Asher、そして我らが谷川航選手も勝てるチャンスがあることがわかったので来年のオリンピックが非常に楽しみ。

 

10月 世界選手権 橋本大輝 種目別決勝鉄棒の演技

最後は橋本選手。彼の鉄棒は3つポイントとなる点があるが、①冒頭のアドラーハーフ〜リューキンの組み合わせ技は無事成功、安定感抜群カッシーナとコールマンを決め、②絶対に連続で決めなければならない伸身トカチェフ〜開脚トカチェフもしっかり繋げて、③アドラー1回ひねりもしっかり倒立にはまり、終末技の伸身新月面をピタリと止めた。3つのポイントを乗り切り、Dスコア6.7のフル構成を完璧に決め圧倒的な強さで優勝をもぎ取った。特に前年の通達から姿勢欠点が厳しくなった伸身トカチェフの姿勢が真っ直ぐで素晴らしい。8月のユニバーシティゲームズでもこの構成に挑んでいて、そのときは着地で大きく1歩動いていたが今回はピタリと止め、過去2大会は着地の差で金メダルには届いていなかったが今回それが報われた形となった。国内大会では昨年の全日本決勝の1度しか成功していないこの構成を世界の大舞台で決めきる強さに天晴れ。

11月に行われた全日本団体でもこの演技構成を実施。着地まで決めて全体の1位の得点を出していた。春先の選考会では失敗が目立っていたが、ユニバーシティゲームズ、世界選手権予選、種目別決勝、そして全日本団体と成功させ安定感も増してきた。来年のオリンピックに向けてしっかりギアを入れているといったところだろうか。

 

あげ出したらキリがないのでかなり厳選したが、今年も国内大会・世界大会でたくさん素晴らしい演技を見ることができて本当に楽しかった。新型コロナウイルスが緩和され、延期されていた国際大会の実施、日本選手の国際大会派遣も増えて昨年よりもたくさんの試合を見ることができた。昨年の学びから多くの国際大会を配信で見ることもできたしとても充実していたと実感している。

絶賛オフシーズン中でしばし寂しい時期が続くが、来年はオリンピックがあるしそれまでにもっと勉強できるといいな。