一人静かに内省す

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パリオリンピック選考会の展望《個人総合順位編》

⚠︎当記事は漫画:寄生獣のネタバレをしています

 

全日本選手権が終わり、パリオリンピック選考会も残すところあと1大会、2試合となり佳境を迎えている。インカレ、シニア、高校選抜等の1次予選を潜り抜けた103名の選手が2次予選の全日本選手権に駒を進め、その結果を踏まえ63名の選手が最終予選のNHK杯に出場する。

先日行われた全日本選手権の結果は波乱だった。東京オリンピック後に行われた二度の世界選手権の代表に選ばれた選手のうち、すでに半数が事実上落選の立場に置かれている。ある程度予想がつかない結果になることは想定していたが、想像以上の結果に打ちひしがれてしまい、予選の順位が発表されてしばらく呆然としてしまった。

そしてこの2試合の得点と代表選考ルールを照らし合わせると、思った以上に多くの選手に可能性があることもわかった。日本男子は層が厚いとは思っていたが、こちらも想定以上の結果となって驚いた。

パリオリンピックの代表選考の対象試合は全日本選手権の2試合とNHK杯の2試合の計4試合だ。冒頭に佳境と綴ったが、正直なところ2/4試合ではまだ見えてこないことの方が多い。実際に様相がはっきり見えてくるのはNHK杯1日目終了後か、あるいは2日目の最中かもしれない。それくらい読めない部分が多い。とはいえNHK杯1日目の翌日は女子の試合があるし、2日目なんて試合を見るだけで精一杯なのが必至だ。試合と同時進行で代表得点の計算をする猛者もいると思うが、私にとっては現時点の情報で整理せざるを得ない。

というわけでタイミングとしては早いが、全日本選手権の結果が出揃ってNHK杯まで少し時間があるので、現時点で出ている情報をまとめて代表選考の展望を考えてみる。代表選手は個人総合枠と貢献度枠に大きく分かれており、今回は個人総合枠を中心に代表決定の重要な基準となる個人総合の順位について。敬称略。(良かったら過去に起こした代表選考ルールについての記事日本体操協会が公表している代表選考方法を一読してください。)

 

 

個人総合順位

すでに代表に内定している橋本大輝を除いて残りの代表枠は4名で、そのうち2名は橋本を除くNHK杯の個人総合上位2名がそのまま代表に内定する。NHK杯の順位は全日本選手権の2試合の得点も加算されるため、全日本選手権での点数が大きく影響する。

そしてその結果がこちら。(日本体操協会公式サイトのリザルトより)

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橋本の得点が際立っているのが目立つ。仕上げてくるだろうなとは思っていたが想像を超えた得点を叩き出し、他を圧倒している。内定選手として当然の如く首位に位置していて大変素晴らしいが、このリザルトは橋本との点差を表記しているため、他の選手の点差を比べるには少しわかりづらい。というわけで橋本以外の各人の点差を表した表がこちら。

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層の厚い日本男子、点差は大小あるものの特別大きいものは見受けられない。体操競技大過失の失点は1点で、着地の一歩で0.1から0.3。どの選手もその日の出来次第でひっくり返るような点差だ。

そして思い起こすこと1年前、NHK杯で大きな猛追があった。こちらがそのリザルト。

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上の画像が全日本選手権の予選リザルト、そして下がNHK杯のリザルト。全日本選手権予選終了時点で3.368開いていた三輪と千葉の点差がNHK杯で0.067まで縮んだ。2試合でこれだけ点差が縮まり、代表選考にも影響を与えた。上位選手のミスが点差を縮めたことに繋がったわけだが、2試合あれば3点以上の点差がひっくり返ることが現実としてあり得るということだ。

そしてここからは実際に代表選考のボーダーラインとなる順位との比較をしていく。

 

3位(個人総合枠決定ライン)

厳密にいうと橋本を除く上位2名だが、橋本と2位以下の点差、橋本本人の実力を踏まえると最終順位が1位になる可能性が非常に高い。なので以降橋本は1位で通過する前提とする。

NHK2日目終了時点で3位以内であれば自動的に代表内定となるので、代表選考会において最も重要な基準が3位である。全日本選手権終了時点で3位である萱との差がこちら。

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先に説明した逆転可能な点差を踏まえると12位くらいまでは可能性がある、と言いたいところだが私もここまで体操競技の試合を見てきた経験がある。とある先人が「体操競技にラッキーパンチはない」と話していたように、上位陣は事前にあらかた予想したメンツが顔を揃えており、いずれもそう簡単に逆転を許しそうにない面々だ。

まず2位は岡。2日間とも86点を超える高スコアを出しているが、予選と決勝それぞれでミスをしている。裏を返せばミスをしてもこれだけの得点を出せる力を持っているともいえる。2日目はあん馬で落下、鉄棒で振り戻しになるミスがあったが、いずれもミスをした技をやり直してDスコアを確保しており、ミスを最小限に抑えたことでこの順位をキープした。ミスをしても消極的にならない試合運びはとても素晴らしかったが、波があるのは否めず、4位以下の点差もさほど大きくないので油断はできないポジション。

そして3位は萱が位置しており、1日目も2日目も85点後半の得点を出している。1日目のゆか、2日目の跳馬で中過失程度のミスを出した程度で、大きなミスを出すことなく2日間を通し、さすがの安定感を遺憾なく発揮してきた。おそらくNHK杯もこのくらいの得点を出す可能性は十分あるため、実質的なターゲットスコアになると思われる。

4位の杉野は1日目のあん馬でミスがあったが、2日目は大きなミスなく通して86点を超えている。5位の土井は2日目の鉄棒でミスが出ており、得意のゆかは両日で細かい取りこぼしがあった。この2名の点差と持ち前の実力を考えると逆転は十分可能といえる。

6位は田中佑典。選考会ということを一旦置いておいて、年齢の話をするのはあまり好きではないが、さすがに34歳でこの位置にいるのが本気で意味がわからない。予選決勝ともにミスなく、得意種目では十分に力を発揮する姿が非常に印象的だった。年々磨きがかかったような演技を披露しているが、ここまで大きく代表争いに食い込んでくるとは予想しておらず、個人的には嬉しい誤算だ。ただミスがないという点において萱との点差が1.832というのは少し大きいと思うので逆転は難しいポジションといえる。

そして7位松見、8位三輪、9位川上と例年の上位常連が並ぶが、この辺りの点差と萱の安定感を考えると少し難しい位置に思える。ただ三輪は前年のリザルトを見てもわかるように86点を超える点数を出す力があるので、ミスを最小限に抑えれば不可能ではないと考えられる。

つまりこの個人総合枠の争いは、岡、萱、杉野、土井が中心になると予想する。そこに三輪がどこまで食らいつけるかが注目。ちなみにこの5名は貢献度枠でも代表の可能性が高い且つ大きな影響が出そうなので、代表争いの中心になると思われる。

 

10位(貢献度選出者Aの条件ライン)

貢献度枠は2枠あるが、そのうち1枠はNHK杯終了時点で10位以内という条件がある。それを踏まえて全日本選手権終了時点で10位である長谷川との点差はこちら。

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点差的には3〜19位くらいの選手がターゲットになるが、上位選手と下位選手の持ち前の実力、ミスの回数を踏まえるとここに入ってくる選手はもう少し限られると思われる。10位以内に入ったとて貢献点を稼いでいなければ代表には遠くなるのだが、このラインをクリアすれば確実に4枠目の条件をクリアするので、種目別枠以外の選手は目指したい位置。貢献点が稼げそうな選手は全日本選手権2試合の得点でわりと見えているところもあるので、その選手らがここに入ってくるかどうかで代表選考の行方が大きく変わってくる。

 

18位(NHK杯2日目進出ライン)

ここが結構重要なライン。NHK杯1日目終了時点で18位以内に入ることが2日目進出の条件だ。そして前述の3位と10位はNHK杯2日目終了時点の順位だが、この18位は1日目終了時点の順位なので1試合の点数で決まる。19位以下になってももう一つの貢献度枠は狙えるが、種目別枠の選手含めわずか3名しか2日目には進出できない。最終的な代表決定の貢献度枠の計算と、NHK杯2日目に進出できる貢献度枠の計算は若干違うことを踏まえると不確実性が高いので、ここは確実に狙いたい順位だ。

全日本選手権終了時点で18位の佐々木との点差はこちら。

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これまでは2試合合計の点差だったので3点程度をターゲットとしていたが、これは1試合になるのでせいぜい1.5〜2点程度になると思われる。そうなると現在25位以下の選手が厳しいと取れるが、上位の選手がミスしたら当然順位はひっくり返るので25位以下の選手はもちろん、12〜24位までの選手もまったく油断はできない。

 

 

漫画:寄生獣の最終巻でミギーを失った泉新一が後藤と対峙した際のモノローグがある。

後藤が人間同士の諍いによそ見したほんの僅かの時間、新一は目の前にある鉄の棒で後藤の「すき間」を狙う一か八かの賭けに出ようとしていた。例え体に若干の寄生生物の成分が入り込んだ新一とはいえ、丸腰の人間と寄生生物の完成系ともいえる後藤との戦いは、圧倒的に不利としかいえなかったが彼は諦めていなかったのだ。不確実な要素だらけの状況だったが、その鉄の棒にこれまで培ってきた経験と知識の全てを託し、一縷の望みに賭けたシーンがある。下の画像はクライマックスの要のシーンで、個人的にとても好きなセリフの一つだ。

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全日本選手権の結果を元につらつらとなんとなく分析はしてみたが、全日本選手権の結果でNHK杯の残り2試合を予想するのはやはり無理がある。体操にラッキーパンチはないが同じように絶対もない。

点差の大小はあれど全員に個人総合枠を狙える可能性はあるのだ。それが個人総合枠でNHK杯に進出できた一番の特権だ。

やるからには可能性は決して0ではない。私が最も言いたかったことはこれだ。

 

選手それぞれ目標や戦略があると思うが、怪我なく6種目×2日間の大変な試合を乗り切れることを祈る。