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日本男子を中心に体操競技応援中!体操競技について思いのまま綴っています

全日本体操個人総合選手権観戦記

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2024年4月11日〜14日に行われた全日本体操個人総合選手権に行ってきた。これまでの大会と変化している点がいくつかあったので記憶が新しい内に観戦記として残そうと思う。

 

今年のパリオリンピックの代表選考会も兼ねて実施された今大会は毎年シーズンの幕開けとなる大会に位置する。今回変化した点が多かったのは、主催である日本体操協会の財政難が関係している。

昨年夏、令和4年度の決算で2.6億円の赤字となった報道(体操協会の赤字2.6億円 22年度、五輪選考会に影響 - 日本経済新聞)があった。決算書は協会の公式サイトに公表されており、10億円超の収入規模の法人が2.6億円の赤字を出したインパクトは強いが、純資産額9億円の約30%にあたる金額を取り崩したという点においてもかなり衝撃的だった。端的に説明するとこの状況がそのまま続けば令和4年度末(2023年3月末)の約2年強経過後、つまり遅くとも来年の夏頃に債務超過する計算になる。会計に従事している立場としての意見だが、コロナ初年度でもないのになぜここまでの数字に至ってしまったのか理解に苦しむし、公表されている財務諸表から得られる情報は限られているにもかかわらず突っ込みたくなる数字が多く並んでいる状態だ。しかし出てしまったものを変えることはできないので、今後どう改善していくかが肝心だ。

今年度の予算では更に協賛金収入が大幅に減っており依然厳しい財務状況である以上、大会運営に大幅な修正を入れざるを得ない事態で、昨年の全日本団体選手権から少しずつ変化を見せている次第だ。個人的に印象に残ったことを書き連ねていく。

 

高崎アリーナでの開催

昨年までは春先の選考会は東京で行われていたが、上記の理由から地方での開催となった。群馬県高崎市にある高崎アリーナは高崎駅から徒歩で向かえる位置にあり、遠征である私にとって利用しやすく、地方在住の身としては東京よりも居心地が良い印象だった。会場付近には特に何もないゆえ飲食や宿泊は駅周辺を利用するため、滞在中は会場と駅を何度か往復していたのだが、それを繰り返す途中なぜか気が狂いそうになる感覚があった。理由はよくわからないがこの単調な往復行為がどうやら性に合っていないらしい。

私は今回初めて利用したが、かなりキレイな体育館で東京の会場より狭い体育館だった。男女別日開催ではあったが、器具の配置は割とコンパクトで、男子の6種目全てを網羅する配置はこれまでかなり難しかったが、今回は角度によってはそれが可能になる席も十分存在した。ラッキーなことに予選の日、ほぼ6種目を見渡せる席に座ることができて、楽しく観戦していたのだがこれが思わぬ落とし穴になった。

事件は後半の2班で起きた。2班は代表クラスの強い選手が多く集まっており、さらに毎度ながら6種目同時実施である。これまでも幾度となく見たい演技を見逃してきたわけだが、その大きな理由は自席から遠くに位置する器具の種目はどうしても視界にとらえることができず、知らないうちに演技が終わっていたという状況によるものだった。今回は6種目見渡せるのでそんな失敗は犯さないと思いきや、視界に収めることができるとはいえ、以前記事にも起こしたように同時に複数種目を観戦するのが不可能なことに変わりはない。つまり同時に行われる演技を視界に収める中で、私の意思で観戦の取捨選択をしなければならないことになったのだ。

例えば橋本選手のあん馬、杉野選手の鉄棒、岡選手のつり輪、三輪選手の平行棒が同時に視界に入ったとき、これらの種目の優先順位をつけるなどできないのだが、演技が始まる前の数秒の間にいずれかの演技を「見ない」という選択をせざるを得ない状況に追い込まれるのである。こういった状況が何度か訪れ、その度苦渋の選択を迫られ、見たい演技を切り捨てるような感覚を味わってしまい、予想だにしないストレスを抱えることになってしまった。何事も一長一短である。

 

物販の充実

毎回ユニフォームや飲食物の出店はあるが、それ以外に協会から選手のアクリルスタンド、キーホルダー、缶バッチが販売されていた。一切事前予告がなかったことが謎に残るが、選手のグッズが大会で販売されるのは初めて見た。特に缶バッチは、売り場の側を通る度、購入者が列をなしている状態だったのでかなり盛況だったように思う。これからSSR要素とか増えたりするのかしら。

 

予選の入場無料

協会が主催する大会で入場無料は初めての体験だった。しかも権威ある天皇杯の予選、少々驚いたがこちらも前述の財政難による影響と思われる。表向きは気軽に来場してもらうためとされていたが、入場料を有料で販売すれば当然それを管理する人員が一定数必要になるわけで、寂しい話だが平日の地方開催の試合は集客が見込めない。予想される観客数の入場料とそれにかかるコストを天秤にかけて後者が上回るという判断になったと思われるが、集客が見込めないとはいえ4年に1度のオリンピックの2次予選初戦である。無料なので全席自由席ということでどうなるのかと少し不安があったが、観客があまり多くなかったこともあり特に大きな問題はなかったように見受けられた。

とはいえ、私物を放り投げて複数席確保、演技中の席移動といったいわゆるマナー違反とされる行為は散見された。入場を無料にして全席自由席にした時点で、有料販売の試合と比べて品位の下がる行為が増えるのは市場経済の常である。フライトのファーストクラスとエコノミークラスで客層が異なるのと同じ話で、運営側も織り込み済みだろうし、特に明確なルールも設けておらず且つ注意喚起もしない状況でマナー違反を一掃するのは不可能に近く、ある程度は飲み込まなければならない。

ただ個人的に気になったのが、私が視認した範囲で前述したマナーに欠ける行為を行なっていた中に、応援しているチームのグッズを身に纏っていた観客がいたことである。受け売りだが、"応援と価値を下げることを同時にしてはいけない"し、応援している選手、チームがいるファン全員が肝に銘じるべきだ。

とはいえ私自身も正しい観戦を行なっていると堂々と胸を張っていえるかというと、首を縦には振る自信はない。自身の行動を改めて見返して、不特定多数が集う場ということを意識してそれぞれが快適に観戦できるよう心掛けたい。

 

試合の演出

ここ最近の試合で、選手入場の演出を試行錯誤している様子が伺えたが今回も新しい演出が導入されていた。前回の全日本団体選手権で選手入場時にカウントダウンと照明の演出を行なっていたが今回も引き続き行われ、決勝では新たにエスコートキッズの演出も追加で行われた。予選上位から6人1組で班分けされて選手紹介が行われるのだが、その先頭をエスコートキッズが先導し、選手紹介後キッズにハイタッチをして捌ける、という流れでこれが非常に良かった。

まずキッズがかわいい。しっかり先導してもかわいいし、モタモタしてもかわいいし、気恥ずかしそうにしているのもかわいい。そしてそれを見ている選手もかわいいし、しゃがんでハイタッチする姿もかわいい。何がどうなってもかわいいにしか転ばないかわいい充満状態のアリーナはユートピアと化した。かわいいは正義。もっとやれ。

そして試合後、上位3名のみで表彰式が行われてあっという間に退散、という流れが定番だったが、出場選手全員がアリーナを周回する「ありがとうラン」なるものが行われた。お手振りをしながら会場を一周するという単純な演出ではあったが、これも非常に良かった。ありがとうは選手から観客に対してかと思われるが、観客側としては勝者だけでなく出場者全員に感謝したい気持ちでいっぱいなので、選手に対して手を振ったりすることでそれを表せる機会になって嬉しかったし、シンプルにお互い手を振り合うというのは快い。それに演技は知っているが顔はいまいち把握できていないという選手が何人かいるが、そういった選手の顔をしっかり拝見することができてとても良かった。選手が演技以外でアピールする(やる人は少なそうだが)場面が増えたことで新たな広がりが生まれそう。ほぼコストゼロで選手・観客ともに満足度が上がる感覚があって、とても素敵な空気感を味わえた。

強いて改善点を挙げるとすれば、比較的外側を周回しており、後方に座っている観客は見えにくい状況だったと思うのでもう少し内側を周るとよいのかなと。

体操競技は競技の特性上、怪我のリスクを避けるため試合中の演出はほとんどできない状況となっているが、試合前後の時間を利用して観客を楽しませる演出がたくさん盛り込まれていてとても楽しかった。

 

全日本選手権はシーズン最初の試合ということと、個人的には仕事の繁忙期を越えて行われる時期でもあるので、毎年一番心待ちにしている試合だ。代表選考会の皮切りになるのでどうしても重い雰囲気になってしまうのが少し辛いところでもあるが、今年は例年より工夫が感じられて演技以外でも楽しいと思う場面が多かった。

まだ課題の多い体操競技だけど、NHK杯もさらに楽しめるといいなあ。