一人静かに内省す

日本男子を中心に体操競技応援中!体操競技について思いのまま綴っています

パリオリンピック代表候補《ナショナル選手・その他編》

前回に引き続きパリオリンピック代表候補について紹介。ラストは現時点でのナショナル選手とそれ以外で個人的に注目している選手を紹介する。(年齢、所属は2024年4月1日現在のもの)

 

まずは2023年度のナショナル選手である3選手。

 

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川上翔平

写真左の選手で、徳洲会体操クラブ所属の20歳。前回のオリンピックではまだ高校生だったが、今やすっかり日本のトップ選手の一人となっている。2023年に行われたアジア大会の代表に選出されており、団体銀メダルに貢献している。

若い選手だが安定感があるのが最大の特徴。団体戦でのトップバッターはそのあとに演技をする選手への影響が大きいので、経験値の高い選手が担うことが多いが、昨年出場したユニバーシティゲームズ、アジア大会ともに多くの種目でトップバッターを任されていた。若手選手かつ新型コロナの影響から国際大会の経験は比較的少ないが、このような采配になったのは持ち前の安定感の高さゆえといえる。

平行棒、鉄棒を得意としており、特に鉄棒は2022年の全日本種目別選手権で国内の強敵をおさえて優勝するほど高い実力を持っている。多くの技を持っているので演技構成をガラッと変えてくる可能性も十分にあるが、果たしてどう挑んでくるか。

注目種目は跳馬。元々Dスコア5.6のユルチェンコ3回ひねりを跳べるのだが、昨年の試合では不認定に終わってしまった。ところがユルチェンコ後方屈身2回宙返りを習得したことから、今回の選考会ではそれに挑んでくる模様。こちらもDスコア5.6の大技で、この技に成功すれば代表に近くなると思うので要注目。

 

松見一希

写真中央の選手で、徳洲会体操クラブ所属の26歳。大学時代はあまり目立った成績を残していなかったようだが、社会人以降個人総合を含め存在感が出てきた大器晩成の選手。

6種目満遍なく高いスコアを出す力を持っているが、突出した種目というのはなく典型的な個人総合型の選手といえる。要するに個人総合枠での代表入りが必須となる。

注目種目はゆかとつり輪。ゆかは最も得意種目としているが比較的Eスコアが伸びにくいので、Dスコアをどこまで上げるかが注目点。日本の苦手種目であるつり輪で安定して14点台を出せる選手なので、つり輪を伸ばして日本の弱点を補ってほしい。

美しい体操が特徴で特に平行棒の倒立はその象徴といえるので、個人的には平行棒をあげてほしいと密かに期待している。

 

津村涼太

写真右の選手で、鹿屋体育大学所属の21歳。昨年初めてナショナル入りした選手で、日本代表で出場したアジア大会では団体銀メダルのほか種目別あん馬でも銀メダルを獲得している。

注目種目はあん馬とつり輪。あん馬はスピードのある開脚旋回が特徴で、高いDスコアを持ちながら安定感が高く15点を出すことが珍しくなくなっているレベル。本人いわくまだ伸びしろがあるようで、さらにDスコアを上げてくる可能性が高い。つり輪はアジア大会では期待した評価を得ているとはいえなかったが、数少ないあん馬とつり輪が強い選手ゆえの優位性があるのでどう挑んでくるか注目したい。

体操男子の強豪大学といえば日本体育大学順天堂大学の2強なのだが、近年鹿屋体育大学がその牙城を崩す勢いで力をつけている。現状その筆頭が津村選手なので、鹿屋体育大学初のオリンピック代表といった点でも注目したい。

 

 

最後に日本代表、ナショナル選手以外で注目している5選手。選出基準は私の独断。

 

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岡慎之助

写真上段左の選手で、徳洲会体操クラブ所属の20歳。2022年の全日本選手権の予選を3位で通過し大きく注目を浴びたが、決勝で前十字靭帯を断裂する大怪我をした過去がある。昨年から無事試合に復帰し、NHK杯は11位。全日本決勝では85点を超える高得点を出している。

注目種目はつり輪と平行棒。つり輪は怪我の影響で重点的に強化しており、元々苦手種目だったが大きく力をつけて今では14点台を取れるようになった。平行棒は元々得意種目で15点台を出せる力を十分に持っている。本来は跳馬、鉄棒も得意だが跳馬は怪我の影響で難度を落としており、鉄棒も怪我以降難度を下げており、且つ波も大きい印象。ゆかとあん馬も高い得点を出せるので、ゆか・あん馬・つり輪・平行棒の4種目でどこまで伸ばせるかが鍵。

体操のセンスは随一のものがあると思われるので、持ち前の実力をどこまで出し切れるか。

 

佐々木郁哉

写真上段右の選手で、仙台大学所属の21歳。2023年に大きく躍進しNHK杯は16位。他の選手と比べると若干実力が劣る印象もあるが、このへんの年齢の選手が伸ばしてくると一気に代表候補に名乗り出てくるパターンも可能性として十分あり得る。

注目種目はあん馬跳馬あん馬は開脚旋回を得意としており、Dスコアを上げて攻めてくる可能性あり。跳馬はDスコア5.6のロペスが非常に安定しており、Dスコア6.0のヨネクラを跳べればかなり代表に近づけるのではと予想。課題は全体的なEスコアをどこまで残せるか。

体操選手では珍しく毎日のようにSNSで演技の動画を上げているかなりマメな選手。こういった活動が報われてほしいという思いと、社会人よりも選手層の薄い大学生の中では注目株の一人なので、今回の選考会で台風の目になってほしい。

 

春木三憲

写真下段左の選手で、徳洲会体操クラブ所属の25歳。清風高校から日本体育大学へ進学した体操界ではエリートといえる経歴で、昨年のNHK杯は19位。

注目種目はつり輪と平行棒。つり輪は最も得意な種目としており、個人総合での代表入りは少し難しい現状を踏まえると、おそらくこの種目で大きく点を稼ぐ戦略になるかと思われる。跳馬でDスコア5.6のロペスを持っているが、三輪選手や佐々木選手ほど点を伸ばすのは難しく、貢献度という点で狙うのは厳しいと予想。もう1種目武器がほしいところなのだが、それが平行棒になるのではと予想している。過去にワールドカップシリーズでG難度のツォラキディスを成功させたことがあるので、その勝負強さを見てみたい。

元々安定感の高い選手で、団体戦にいると心強いタイプといえる。この2年間代表選考には中々絡めなかったが実力は十分なので期待したい。

 

杉野正尭

写真下段中央の選手で、徳洲会体操クラブ所属の25歳。東京オリンピックでは代表選考会で北園選手とギリギリまで競り合い、2022年の選考会でも谷川翔選手と最後まで競り合いながらも落選している。そして昨年のNHK杯はまさかの21位で、代表争いで名前があがることはほとんどなかった。

注目種目はあん馬と鉄棒。どちらも世界トップクラスの高いDスコアを持っており、昨年の全日本種目別選手権ではあん馬は優勝、鉄棒は3位の成績を残している。秋に行われた全日本団体選手権でも高いDスコアの演技を成功させる強さを見せた。ただ東京オリンピックの選考会はあん馬、2022年の選考会では鉄棒、どちらも得意種目で大きなミスが出たことで代表入りを逃している。

個人総合はもちろん貢献度枠でもかなり強い選手で、日本代表に最も近いところにいながらも落選するという点が印象に強いからか、“体操界一惜しい男”という不名誉なレッテルを持つ。間違いなく世界に通用する力を持つ選手だと思うし世界で活躍する姿を見たい選手の筆頭なので、今度こそ笑顔で試合を終える杉野選手を見たい。

 

髙橋一矢

写真下段右の選手で、徳洲会体操クラブ所属の27歳。いわゆる花の96年世代の一人で、2022年の選考会ではギリギリまで代表候補であったが惜しくも落選。昨年のNHK杯は予選落ちしているが、全日本種目別選手権ではつり輪で2位の成績を収めている。

注目種目はゆかとつり輪。つり輪の印象が強いがゆかとあん馬も得意としている。あん馬は層が厚い種目なので中々攻めにくいが、ゆかは現ルールの特性上Dスコアを上げにくい一方、この種目で安定感のある演技をする選手なので武器として臨んでほしいという個人的願望を抱いている。元々スペシャリストだったのでつり輪は高得点を出せる力があるが、ここ最近力技の姿勢欠点が目立つからか、Eスコアが伸びにくくなっているのが少し気になるところ。日本の弱点でもあるこの種目で高得点を出せると頼もしいので、攻めの演技を見せてほしい。

個人総合での代表入りは難しいので貢献度枠での代表入りを目指すと思うが、ゆかとつり輪は特に点数を上げにくい種目のため、厳しい戦いを強いられると予想。南選手同様、他力本願にならざるを得ないが、実直なスタイルが好きなので自身の力を十分に発揮できることを切に願う。

 

 

今回ピックアップした橋本選手を除く18名以外から選出される可能性も十分ありえるくらい本当に層が厚い日本。団体戦で金メダルを獲ることを念頭に置くと特定の種目に特化した選手が選ばれるのが望ましいが、特定の種目に特化しているとそれ以外の種目でリスクが生まれるデメリットも出てきてしまう。選考ルール的には安定感が高い選手が有利となるが、何より選手それぞれが持ち前の実力を出し切れることが金メダル獲得に最も近くなると思う。

 

参加する選手全員が笑顔で選考会を終えられるというのは限りなく難しいといえますが、全ての選手が怪我なく悔いのない演技ができることを心から祈っています。

パリオリンピック代表候補《世界選手権代表編》

前回に続いてパリオリンピック代表候補について紹介。今回は2022・2023年に行われた世界選手権の代表選手について紹介する。(年齢、所属は2024年4月1日現在のもの)

 

まずは2022年にリバプールで行われた世界選手権の代表3選手。

 

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神本雄也

写真左の選手で、コナミスポーツ所属の29歳。リオオリンピックでは候補選手(補欠)に選ばれており、2019年と2022年の世界選手権に出場している。2022年の選考会では個人総合で代表を勝ち取り、世界選手権では得意種目であるつり輪、平行棒、鉄棒の3種目で種目別決勝に進んだ実力を持っている。

神本選手は昨年の選考会終了後に手術を行なっており、以来現在まで試合には出場していない。本人のSNSで演技を紹介する投稿はあったが現状どの程度まで演技を戻せているかは不明である。そういう事情も踏まえて、一番の注目点は体力面。今回の選考会は4月の全日本選手権と5月のNHK杯の両方で個人総合を2試合ずつ行うが、29歳且つ術後初めての試合で体力をどこまで保てるかが焦点になると思われる。全日本選手権は6種目行なってくると思うが、苦手種目は極力抑えて得意種目の3種目でいかに稼ぐかが鍵になると予想。この3種目を得意としている選手は日本にはおらず、中でも日本が苦手としているつり輪で稼げることは選考上比較的有利だし、且つ鉄棒も強いのが他の選手にない特徴といえる。

全日本予選の結果次第でそれ以降の試合にどう臨むかが変わってきそうだが、場合によっては種目を絞って戦うことも大いに予想できる。高い経験値ゆえの試合への戦略があると思うのでそのあたりを注目したい。

 

土井陵輔

写真中央の選手で、この春からセントラルスポーツ所属の22歳。2022年の選考会は個人総合で代表入りし、世界選手権初出場ながら団体銀メダルに加えて種目別ゆかで銅メダルも獲得している。

土井選手の最大のポイントは練習環境が変わったことである。昨年度まで日本体育大学に在籍しており、卒業後も拠点をそのままにする形も無くは無かったかと思うが、結果的に順天堂大学を拠点とするセントラルスポーツに進むこととなった。同期の橋本選手を含め多くの日本代表選手と練習を共にできるというメリットはあるが、練習拠点だけでなく指導者、生活拠点も変更したことはディスアドバンテージになると考えられる。果たしてそれがどう影響するか。

ゆかで大きく点を取れる選手で、あん馬と鉄棒でも高得点が取れる。丁寧で美しい体操を行う選手で、どちらかというとEスコアで稼ぐタイプだが最近はDスコアを上げている姿が目に留まる。ゆかで大きく点が稼げるのが一番の武器で、跳馬も昨年夏頃からDスコア5.6の跳躍になっており、跳馬で14点台後半が取れると代表に近づける上、日本としても大きな戦力となる。あん馬と鉄棒の美しい演技が大好きなので個人的に注目度が高い選手の一人。

 

谷川翔

写真右の選手で、セントラルスポーツ所属の25歳。2022年の世界選手権は2019年以来2度目の出場となった。東京オリンピックの有力な代表候補の一人であったと思うが、直前に怪我を負ったことが影響し代表には選ばれなかった。新型コロナでオリンピック開催が1年延期したことが悪い方に向いてしまった選手で、それゆえの悔しさが滲み出る発言が時々見受けられる。

注目種目はあん馬。2022年の選考会では主にあん馬の貢献度で代表入りしたが、世界選手権の団体決勝では大きなミスを出してしまった苦い経験がある。昨年のアジア大会団体戦でもミスをしており、得意種目だが一番の課題でもある種目。年始の報道であん馬と平行棒に注力する発言があったので、この2種目で大きく点を取ってくると予想される。あん馬は元々高いDスコアを持っているが、平行棒はそこまで突出して高いDスコアを持っているわけではないので、どういった演技構成で挑んでくるか注目したい。

選考会では毎度ながらその種目の性質からあん馬がキーとなる。納得の演技を実施してこれまでの悔しさを晴らしてほしい。

 

 

続いて2023年にアントワープで行われた世界選手権代表の4選手。

 

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三輪哲平

写真左上の選手で、セントラルスポーツ所属の23歳。昨年の選考会では個人総合で代表入りしたものの、現地で怪我をしたことで世界選手権は直前に交代することとなってしまった。そのまま控えの選手として帯同し、目の前で他の代表選手が金メダルを獲得する場面に直面したという点で、おそらく全選手の中で最も悔しい経験をした選手。

跳馬、平行棒、鉄棒を得意としている選手で、中でも跳馬はトップ選手の中で一番の安定感を持つ。高いDスコアだけでなく、美しい姿勢と抜群の跳躍の高さによって確実に14.8点以上を出せる強さがある。平行棒と鉄棒も得意としているが、この2種目を得意としている選手は多く、突出した得点を出せるわけではないので、個人総合枠での代表入りが必要になると思われる。昨年の全日本選手権ではDスコアをかなり落としており、翌月のNHK杯ではDスコアを上げて臨むという戦い方だったが、今年の選考会ではどう臨んでくるか。

世界選手権での悔しさを隠しきれない表情が未だ頭に残るが、その悔しさを力に変えてどこまで安定感を高められるかが鍵になると思われる。

 

千葉健太

写真右上の選手で、セントラルスポーツ所属の27歳。昨年の世界選手権は27歳で初めて代表入りし、初出場ながら個人総合の予選を1位で通過するなど、持ち前の美しさを武器に強さを見せつけた。

世界選手権では収穫と課題がわかりやすく表れた選手だが、この経験が選考会にどう反映されるが見どころ。今回挙げた選手の中で最も波が大きい選手で、ハマれば代表選出レベルだしハマらないと予選落ちもあり得るほど読みづらいタイプ。

注目種目はつり輪とあん馬。日本が苦手としているつり輪を得意種目としており国内では高得点が出ていたが、国際大会ではなぜか同じような結果には至らなかった。それ以降、肩の痛みの影響もあってか現在までつり輪の演技を披露する機会はなかったため現状がどうなのかは不明。技の構成によるところもあると思うので、そのままやってくるか、難度を落としてくるか、はたまた別の技に変更するか。あん馬では高得点を出せる実力があるがDスコアがそこまで高いとはいえないので、団体での戦力も加味して重点的に上げてくる可能性もあるのでこちらも注目したい。

 

杉本海誉斗

写真左下の選手で、相好体操クラブ所属の24歳。昨年の世界選手権は当初候補選手だったが、三輪選手の怪我により直前に交代となり団体メンバーとして出場した。金メダル獲得に大きく貢献し、種目別平行棒では銅メダルを獲得した。

世界選手権のさなか、内村航平氏から大学の後輩であるがゆえの独特のプレッシャーを個別に与えられていた印象を受けたが、それを跳ね除けて結果を出す強心臓ぶり。昨シーズンはミスというミスをほとんど見たことがなかったので、安定感という点では萱選手と双璧をなす。

得意種目の平行棒は高得点が出るが、それ以外の種目はDスコアがあまり高くないこともあり、大きな得点源は見込めないイメージ。団体戦においては他のメンバーとの出場種目のバランスを踏まえて平行棒以外にもう1つ得点源となる種目があるとベスト。個人的にはつり輪か鉄棒に期待しているのだが、どう挑んでくるか。

 

南一輝

写真右下の選手で、エムズスポーツクラブ所属の24歳。2021年にゆかで世界選手権の代表経験があったが、昨年は団体メンバーとして出場。団体金メダルのほか種目別ゆかで銀メダルを獲得した。

ゆかのスペシャリストで、東京オリンピック後あたりから跳馬にも注力しており、Dスコア5.6の技を安定して跳べる選手。ゆかについては実力が飛び抜け過ぎているので他を圧倒すると思うが、強いて言えば世界選手権で中々伸びなかったEスコアが課題か。

ゆか、跳馬以外では点を稼げないので、攻め一辺倒になると予想。ゆかは圧倒的なのだが、跳馬についてはD5.6を跳べる個人総合の選手はそこそこいるので、個人総合枠が跳馬が得意な選手になると貢献度を稼ぐのが難しくなるのが一番不利な点。スペシャリストゆえに他力本願にならざるを得ないが、個人総合の選手よりも戦略が限られる点は有利ともいえる。

 

世界での評価のされ方が把握できているので、演技構成や戦略の方向性が明確なことが最大のアドバンテージ。神本選手・土井選手以外は冬に行われたワールドカップシリーズの出場によって試合経験を積んでいることも有利な点のひとつ。世界大会での経験はプレッシャーにつながることもあるが、それ以上に本人の自信になるケースの方が多い印象を受けるので、世界で戦ったプライドと自信を見せつける演技を期待したい。

パリオリンピック代表候補《東京オリンピック代表編》

いよいよパリオリンピックの代表選考が始まる。以前から何度も述べているが日本男子体操は非常に層が厚く、代表の人数は5人だがその枠にはとてもおさまらない数の選手が代表候補として競い合っている状況である。正直代表選手を15人くらいにしてほしいところだが、5人しかいないからこそ価値があるのだ、改めていうまでもないが。選考会のルールについて、以前に記事にしているので参考まで(パリオリンピックに向けた日本男子体操の代表選手選考ルール - 一人静かに内省す)。

日本男子は団体総合での金メダル獲得を最大の目標としている。選手としては代表に入らなければ金メダルも何もないわけだが、代表に入ることは決してゴールではない。日本は若手急上昇のアメリカを気にしつつ、最大のライバルである中国を上回らなければならない。代表入りのポイントに加え金メダル獲得にも焦点においてパリオリンピックの代表候補選手を紹介する。

たくさんいるので今回は東京オリンピック代表の4選手を紹介。ちなみに東京オリンピックを見て再び体操競技のファンに回帰した経緯があるので、この4人については他の選手に比べてかなり贔屓している。(年齢、所属は2024年4月1日現在のもの)

 

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橋本大輝

写真一番左の選手で3月に順天堂大学を卒業し、春からセントラルスポーツ所属となった22歳。橋本選手は昨年の世界選手権の個人総合で金メダルを獲得した実績を踏まえてすでに代表が内定している唯一の選手だが一応紹介。東京オリンピック団体総合の表彰式での写真をチョイスしたのだがあまりにも顔つきが変わってしまっていて驚いた。この3年弱で最も成長した選手だと思う。

すでに代表に内定しているが、これまでどおり選考会には出場すると思われる。この2年間の選考会でベストな演技構成を行なったのは2022年の全日本選手権決勝のみだが、ベストな演技構成を行わなくても結果優勝しているので他の選手より頭2つくらい抜けている実力を持つ。他の代表メンバーが決まっていない以上、団体金メダル獲得には彼がベストの演技を行うことが現時点での最低条件になるといえる。世界選手権と違いオリンピックは選考会からあまり日がないので、オリンピック本番に向けてかなり仕上げてくると予想。どの程度Dスコアを上げてくるかが最大の注目で、注目種目は全種目。怪我なくベストな演技を行なってオリンピックに向けて弾みになることを願う。

 

萱和磨

写真左から2番目の選手で、セントラルスポーツ所属の27歳。東京オリンピックでは団体のキャプテンを務め、前年の世界選手権でもキャプテンを担い団体金メダルに大きく貢献。「失敗しない男」と称されているが、マスメディアお得意の誇張したキャッチコピーではなく本当に失敗しない。間違いなく世界で最も安定感のある選手。

正直萱選手の経験値・安定感・キャプテンシーは日本に絶対に必要なので橋本選手と同じく内定が出てほしいまであったが、体操競技は内定が出ることは稀で、選考会での結果を重んじる傾向にあるのでそう簡単に内定は出ない。そして昨年の世界選手権で予選2位でありながら個人総合決勝に出場できないという、他にない悔しさを抱えているのが最大のモチベーションになっているのでは。

萱選手はあん馬を得意としているが爆発的なスコアを出すわけではなく、6種目14点以上を確実に稼ぐ個人総合に長けた選手である。選考ルールでは個人総合枠2名と貢献度枠2名を代表とするが、6種目の安定感が最大の武器である萱選手の場合は貢献度での代表入りとなると途端に難しくなってしまうので、是が非でもNHK杯で上位2名に入ることが絶対条件となるといえる。

注目種目は跳馬跳馬で中々点が伸びない傾向にあったが、昨年の世界選手権団体決勝で素晴らしい演技を披露しEスコア9点台を出したので、それができればかなり代表にかなり近くなるのではと予想。

繰り返すが萱選手は絶対に日本代表に必要な選手だ。必ず上位2名に入り代表になる姿を見せてほしい。

 

北園丈琉

写真右から2番目の選手で、徳洲会体操クラブ所属の21歳。東京オリンピックでは選考会で負った怪我を抱えながらも、最年少として団体銀メダルに大きく貢献した選手。しかしこの2年間、世界選手権の代表になるどころか代表の候補にすらあがることはなかった。東京オリンピックメンバーの中で唯一拠点が変わった選手で、高校の練習内容からいきなり社会人の練習内容となり、その上ルール改正、怪我の療養といった課題を最も多く抱えていた選手といえるので致し方ない面もあった。国内の選考会では中々本来の実力を発揮できずにいたが、昨年のアジア大会の個人総合で87点台を出すなど、復活の兆しを見せている。

代表メンバーは選考会の結果から選ばれるのだが、個人競技である体操競技の選手同士の相性等は当然度外視である。演技そのものとはあまり関係ない点ではあるが、男性だけで構成される団体メンバーの中で選手同士の年齢、所属先や出身校が関係性に影響しないわけがない。東京オリンピックアジア大会を見て感じたのが、北園選手の皆から愛される憎めないキャラクターは集団の中でバランスをとる要素があると思っているので、そういった点も含めて代表に入ってほしい選手の一人である。

注目種目は跳馬東京オリンピック以降ずっと苦戦している種目だが、アジア大会以降安定感も高くなっているので、14点台後半を狙えると理想。ここ最近平行棒で15点台に乗ることが多くなったことと、鉄棒で14点台半ば〜後半を出せれば日本としては大きな強みになる。北園選手も貢献度枠での代表入りは少し難しいので上位2名に入ることが望ましい。6種目大きなミスさえなければ橋本選手に次ぐ実力だと思うので、オリンピック代表のプライドを見せてほしい。

 

谷川航

写真一番右の選手で、セントラルスポーツ所属の27歳。私の推し。2022年の世界選手権代表選手で、団体銀メダルに加えて個人総合で銅メダルも獲得している。2017年以降毎年A代表(オリンピック・世界選手権の代表)だったが昨年7年ぶりの代表落ちとなった。毎年代表に入っていたこと、そして個人総合のメダリストになったにも関わらず代表にすら入れなかったことで相当悔しい思いを抱えていたのでは。世界選手権のメンバーにはなれなかったが、アジア大会の代表に選出されキャプテンとして臨み、予選を兼ねた団体戦では出場した5種目全てでベストな演技を魅せ、団体戦においての強さと頼もしさを改めて感じられた。

個人総合に強い選手ではあるが、萱選手・北園選手と比べると種目ごとの波が大きい選手。上位2名に入らなくても貢献度枠での代表入りの可能性が高いので、選考会では得意種目でいかに得点を稼ぐかが最大のポイントになるといえる。

注目種目はつり輪・跳馬・平行棒。日本が最も苦手としているつり輪で確実に14点台が出せることは日本としては大きな強みになる。そして跳馬ではおそらく最高難度のリ・セグァン2に挑んでくると思うが、団体戦において毎回キーとなる跳馬で15点台を出せるのは、ライバル中国にはない武器になる。それとこれは個人的な予想に過ぎないが平行棒で難度を上げてくるのではと思っている。根拠は特にない。貢献度を稼ぐという意味と、橋本選手や萱選手を上回る得点を取れればこの2選手の負担を減らす効果も出てくる。

日本の苦手種目を補い、ここぞというときに確実に決めてくる強さは日本随一だと思っている。本人が一番の目標としている楽しい体操で最良の結果を期待したい。

 

何よりこのメンバーはわずか0.103の差で金メダルを逃すという経験をしているので、日本の選手の中でも代表に入ること以上に金メダルを取ることに目が向いていると感じられる。そしてオリンピックに出場した選手はオリンピックの選考会こそ強いし、オリンピックの悔しさはオリンピックでしか晴らせないと強く感じているに違いない。4人ともが最大の力を発揮できることを願う。

谷川航選手の体操『鉄棒』

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NHKで放送されていた東京オリンピックの事前番組を拝見して谷川航選手に注目し、番組では跳馬のみ取り上げられていたが、当然他の種目についても気になったので演技動画を探し始めた。私が初めに探した種目は男子体操の花形種目である鉄棒だった。

その理由は顔である。完全なる偏見でしかないが、ゆかや跳馬が得意な脚力系の選手は沖口誠さんや内村航平さんのように朗らかで柔和な顔立ちのイメージがあり、平行棒や鉄棒が得意な選手は冨田洋之さんを始めクールな顔立ちの印象があった。航選手は後者であるため、番組内でしきりに跳馬が得意と紹介されていたことを完全に無視し、きっと鉄棒が得意であろうという先入観を持って鉄棒の演技動画を探し始めたわけだが、鉄棒の演技を確認してまず感じたのは、鉄棒は明らかに苦手種目であるということだ。基本である車輪の動き、ひねり技の捌き方、コバチ系の放れ技を行っていないことを含めて素人目線ながら得意種目ではないなと判断した。

YouTubeではゆかや跳馬の演技動画ばかり引っ掛かり、要するに脚力系の選手ということが判明し、分かりきっていたことではあったが私の先入観が偏見の極みであることが証明された。

東京オリンピック後の記者会見で、今後鉄棒の演技構成を大幅に変更しなければならないことを言及していた。翌年のルール改正について調べると、トカチェフ系の技の難度格下げ、ヤマワキの難度格下げ、放れ技の技数の制限が新たに設けられており、トカチェフ系を4技、その上ヤマワキも演技構成に入れていた航選手とっては結構な打撃があると見受けられた。

オリンピックの翌月に行われた全日本シニアではルール改正に向けてE難度のコールマンに挑む旨の発言をしていた。全日本シニアは無観客無配信だったため実際にどのような演技を行なったかは定かではないが、リザルトの点数を確認する限りどうやら失敗している様子だった。それからは春先まで新しい演技構成について触れる機会もなく、2022年の選考会が始まった。

初日の全日本選手権予選は現地で観戦しており、鉄棒の演技構成をどうしてくるのかと構えていたら事前のアップでG難度のカッシーナに挑んでいた。一瞬コールマンと見間違えたのかと思ったが、抱え込みの姿勢には思えずどう考えてもカッシーナの動きにしか見えなかった。そして演技開始後、1技目にカッシーナを行ってきた。過去に本人のSNSでコールマンを実施している動画を上げており、使ってみたいな〜とまでの伏線があったのに実際に取り入れたのはカッシーナだった。

新ルールで抜かざるを得なくなった技はE難度のモズニク、D難度のリンチ、 D難度のヤマワキで、過去に行っていたD難度の順手背面車輪を戻したとしてもEとDの技を抜くことになり、Dスコアを0.9も落とすことになる。そういった状況で他の技を入れる選択肢も当然あったとは思うが、1技で0.7稼げるG難度のカッシーナを選択した。日本は昔から鉄棒を得意種目としている選手が多いため、カッシーナの映像素材は豊富なこともあり取り入れやすかったとは思うが、これまでコバチ系の技を演技構成に取り入れていなかったのでカッシーナを実施すること自体まったく予想しておらず、かなり驚いた記憶がある。中学生頃からコバチ系の技に取り組んでいたらしいが、高校時代の指導者からはトカチェフ系が向いていると言われていたらしく、過去の試合動画を確認する限り放れ技はトカチェフ系を中心とした演技構成であった。しかし地道に努力を重ねコバチ系の技に向き合って、ルール改正を機に演技構成に入れることとなったようだった。

その上選考会の最終試合である種目別選手権の鉄棒では予選で確実な演技を行い、さらに決勝でもベストな演技を行ったことで最終順位は4位であった。のちに本人もこの結果について“革命”と称していた。

選考会を経て貢献度枠として見事世界選手権の代表となった上、代表合宿での調子の良さから個人総合にエントリーすることになった。航選手は東京オリンピックでも個人総合にエントリーしていたが、チーム内で2位以内に入ることができず予選落ちとなっていた。個人総合については東京オリンピックの同種目で金メダルを獲得した橋本大輝選手と2名のみのエントリーとなったため全体で24位以内に入れば決勝進出となるのだが、本人の実力的にはほぼ確実といえた。とはいえルール改正後初の世界選手権ということで、国外のライバル選手の動向も読めないこともあり、個人的には6位以内に入り橋本選手と一緒に1班で正ローテーションで回れれば理想、と予想していた。すると上位に来ると思われた選手たちにミスが相次いだとはいえ、なんと航選手は1位で予選を通過した。1班どころか1位通過であり、国内試合を含め過去の大会を遡っても彼は1度も個人総合の予選を1位で通過した経験がなく、初めての1位通過が世界選手権となったのである。予選を1位で通過することが何を意味するかというと、決勝で最終種目の鉄棒を最終演技者として演技することになるのである。

銀メダルを獲得した団体戦の2日後に個人総合の決勝が行われた。1種目目のゆかから3種目目のつり輪まではミスなく順調な演技が続いていた。そして最も得意とする4種目目の跳馬。今大会中々実施することができなかった最高難度の大技リ・セグァン2を実施し15.000の高得点を叩き出し波に乗ると、続く5種目目の平行棒も安定感のある演技を実施し、5種目終了時点で4位と約0.7点差で3位につけていた。最終種目は今年大幅に演技構成を変えた鉄棒。予選2位だった橋本選手が完璧な実施を見せ金メダル獲得が確実となったあとの最終演技者として挑んだ演技がこちら。

今年取り入れた大技のカッシーナを決め、少し危ないところがありながらも最後まで着実な演技を行い、銅メダルを獲得した。オリンピック、世界選手権の大きな国際大会を過去4度出場している実績のある選手だが、個人でのメダルは獲得できていなかった。跳馬で大技を成功させたことがピックアップされており、当然それも今回の結果の一因であるが、苦手種目の鉄棒で守りに入ることなく攻めた演技を最後の最後に行ったことも大きな要因だったように思う。実際カッシーナを抜くとなると代わりにC難度のヤマワキを入れることになると思うが、難度の差は0.4。4位の選手との点差が0.3だったことを踏まえると、結果論ではあるがカッシーナを行ったことがメダル獲得に繋がったといえる。最終演技者で苦手種目に臨むことになったとしても、大技を挑んだことで個人総合の実力者として世界に名を刻むことになった。

のちに本人から、選考会の1ヶ月前に新型コロナウイルスに感染していたことが明かされた。約10日間ほど練習できない期間があったので今回の選考会は難しいと思っていたらしいが、その中でも経験を生かして代表を勝ち取り、貴重なチャンスを逃すことなく日本の体操選手であれば手にしたいであろう個人総合のメダルを獲得したのである。この結果は本人としても大きな自信になったと話していた。

 

ハァ…控えめに言ってもこの流れがとてつもなく格好良過ぎてどう文章にすれば良いかわからなかったが、なんとなくまとまったと思う。約1年3ヶ月前のことだが、どうしても文章として起こしたかった。以上、谷川航カッシーナヒストリーでした。

2023年の印象に残った演技

気がつけば世間は年末モードで2023年が終わるという事実に頭が追いつかない。本当に365日も経過したとは思えない感覚が年々強まる中で今年も1年が終わろうとしている。今年の振り返りということで、個人的に印象的だった演技をいくつかあげていく。

 

2月  コトブス国際 LEVANTESI Matteo(ITA) 平行棒決勝の演技

平行棒の倒立の収め方や演技全体のリズムが個人的に好みで去年から注目していた選手で、昨年の世界選手権にも出場しており素晴らしい演技を披露していたがDスコアがあまり高くなかったこともあり、目立つような存在ではなかった。今年の2月に行われたコトブス国際で平行棒に出場。予選の映像はないがリザルトを見る限り従来通りの構成を実施して決勝進出。そして決勝の演技がこちら。

マクーツの滑らかさに目を奪われたかと思ったらその後のシャルロ〜単棒ヒーリー、ヒーリーの流れのスムーズさ、車輪ディアミドフの倒立の捌き、どれも最高である。予選のDが5.9で決勝でD6.5の爆上げにテンションが上がったが、調べると去年のコトブス国際でも似たような演技構成を実施していた。そのときは終末技を前方ダブルにしており転倒していたが、今回は後方屈身ダブルで演技をまとめ見事銀メダルを獲得。今年の世界選手権でも平行棒の種目別決勝に残っていたが、団体決勝、種目別決勝といい演技ができず残念な結果に終わってしまった。グループIIを減点が多そうなハラダで満たすのが個人的に謎。来年の活躍に大期待中。

 

5月 NHK杯 千葉健太 ゆかの演技

全日本選手権11位からNHK杯で4位にジャンプアップした千葉選手の最終種目ゆかの演技。こちらの記事で既に触れているので端折るが、あまり会話をしない塚原さん相手にわざわざ自慢しちゃう冨田さんの気持ちが大いに理解できる絶好調ぶり。演技はもちろん、最後のガッツポーズと笑顔がとても印象的。着地をすべて止めているのはもちろん凄いが(ゆかに限らずではあるが)着地時の足の開きが狭いのが非常に良い。今年の彼の快進撃の象徴といえる演技。

 

8月 ユニバーシティゲームズ KARIMI Milad(KAZ) 種目別決勝鉄棒の演技

こちらの映像にはないが、演技開始後すぐプロテクターが切れたため演技のやり直しが認められ、最終演技者として行ったのがこちらの演技。最初のカッシーナが少し近くはなったもののダイナミックに決め、続いてコバチ〜コールマンの組み合わせも成功、続くトカチェフの連続も成功し、最後の着地も腰が高い位置でまとめ14.800を出し優勝を飾った。昨年の世界選手権、冬場のワールドカップシリーズでも思うような演技ができず歯痒かったが、ゆかに続き鉄棒でも素晴らしい演技をやり切り良い結果を出せたことがとても嬉しかった。

それと現ルールに特化した演技構成も気になった。ひねり技はアドラー系のみで最低限とし、コバチ系とトカチェフの放れ技をそれぞれ2つないしは3つ入れて、さらに組み合わせ加点でDスコアを稼ぐ演技構成が結果的に得点を残しやすいというのが現ルールの特徴なのかなと思った。中国勢はアドラーハーフからコールマンの組み合わせで組み合わせ加点を稼いでいる。アジア大会での谷川翔選手はアドラーハーフすら入れずひねり技ゼロという極端な演技構成だが、結果それで種目別鉄棒で銅メダルを獲得した。日本は鉄棒のひねり技が得意な選手が多いが、こだわりを貫くか否か、来年に向けての対応をどうするのかが気になる。

 

9月 ワールドチャレンジカップ・フランス大会 WHITLOCK Max(GBR) あん馬決勝の演技

金メダルを獲得した東京オリンピック以降、表舞台に立つことはほぼなく実質2年ぶりの現場復帰となった大会。予選は映像がないが15.250の高得点を出し、そしてこの決勝の演技である。約2年間の休養を経て実施する演技構成がDスコア6.9と異次元級だが、ルール改正にもしっかり対応しており、すべての技がスムーズで淀みがなく流れるように演技が進みあっという間に終わってしまう感覚だった。演技内容は高難度のフロップやロシアン転向の技を多く含んでおり、旋回の回数が多くなってしまうので演技時間は比較的長い方だと思うがそんなことはまったく感じられなかった。15.450のハイスコアをマークし、復帰戦ではあったが見事優勝した。

 

10月 世界選手権 DAVTYAN Artur(ARM)  種目別決勝跳馬の演技(2本目)

ルール改正後、ドラグレスクとヨー2が別のグループになりこの2跳躍で跳馬の種目別に臨めるようになったことで水を得た魚のごとくご活躍しているダフチャン。2022年のワールドカップから無双状態でこのままパリまで突っ走るものかと思っていて、世界選手権でもいつもどおり予選をトップ通過し今回も優勝候補筆頭だった。

迎えた決勝、先に演技したJARMANがDスコア6.0のヨネクラ(20:13〜)を素晴らしい実施で成功させ決定点15.400をマーク、2本目のドラグレスクも成功しアベレージ15.050というハイスコアを叩き出した。Dスコア5.6を2本跳ぶダフチャンにとっては2本平均でEスコア9.450を出さなければ勝てないことになったが、予選で15.033を出している彼の実力をもってすれば不可能な数字ではなかった。しかし1本目のドラグレスク(32:36〜)で高さ、飛距離が共に足りず着地で大きく動いてしまった。Eスコア8.666、両足ラインオーバーでND−0.3、決定点は13.966。2本目で16.134以上が必要になりDスコア5.6を跳ぶダフチャンにとっては不可能な数字となってしまった状態でこのヨー2。

元々の技術力や安定感は言うまでもないが、これは意地とプライドで着地を止めたのではないのだろうか。感嘆のため息が漏れてしまうような跳躍で、結果Eスコア9.533が出た。1本目が予選どおりの実施であれば優勝だったわけだが所詮はタラレバ、1本目の失敗からこの2本目が出たわけで、今回の世界選手権で拝見できた全演技の中で最も印象に残った演技だった。演技を終え待機席で後続選手の演技を見守るライバル選手たちのリアクション、ダフチャンのヨー2を目の前で見ていながらもノーリアクションで自分の準備を行うクールなRADIVILOVの姿も良かった。

というわけで1本でも6.0を成功させれば十分優勝できる可能性を見出せた今回の跳馬の種目別。ジェイクの他にYULO Carlos Edriel、ASIL Adem、HONG Asher、そして我らが谷川航選手も勝てるチャンスがあることがわかったので来年のオリンピックが非常に楽しみ。

 

10月 世界選手権 橋本大輝 種目別決勝鉄棒の演技

最後は橋本選手。彼の鉄棒は3つポイントとなる点があるが、①冒頭のアドラーハーフ〜リューキンの組み合わせ技は無事成功、安定感抜群カッシーナとコールマンを決め、②絶対に連続で決めなければならない伸身トカチェフ〜開脚トカチェフもしっかり繋げて、③アドラー1回ひねりもしっかり倒立にはまり、終末技の伸身新月面をピタリと止めた。3つのポイントを乗り切り、Dスコア6.7のフル構成を完璧に決め圧倒的な強さで優勝をもぎ取った。特に前年の通達から姿勢欠点が厳しくなった伸身トカチェフの姿勢が真っ直ぐで素晴らしい。8月のユニバーシティゲームズでもこの構成に挑んでいて、そのときは着地で大きく1歩動いていたが今回はピタリと止め、過去2大会は着地の差で金メダルには届いていなかったが今回それが報われた形となった。国内大会では昨年の全日本決勝の1度しか成功していないこの構成を世界の大舞台で決めきる強さに天晴れ。

11月に行われた全日本団体でもこの演技構成を実施。着地まで決めて全体の1位の得点を出していた。春先の選考会では失敗が目立っていたが、ユニバーシティゲームズ、世界選手権予選、種目別決勝、そして全日本団体と成功させ安定感も増してきた。来年のオリンピックに向けてしっかりギアを入れているといったところだろうか。

 

あげ出したらキリがないのでかなり厳選したが、今年も国内大会・世界大会でたくさん素晴らしい演技を見ることができて本当に楽しかった。新型コロナウイルスが緩和され、延期されていた国際大会の実施、日本選手の国際大会派遣も増えて昨年よりもたくさんの試合を見ることができた。昨年の学びから多くの国際大会を配信で見ることもできたしとても充実していたと実感している。

絶賛オフシーズン中でしばし寂しい時期が続くが、来年はオリンピックがあるしそれまでにもっと勉強できるといいな。