一人静かに内省す

日本男子を中心に体操競技応援中!体操競技について思いのまま綴っています

2023年世界選手権@アントワープ

世界選手権が間近に迫ってきた。今年は9/30〜10/8にベルギーのアントワープで開催される。

来年はパリ五輪が開催されるのでそれに向けた試合となることが予想される。日本は団体金メダルを最大の目標としているが昨年はライバル中国に敗れ2位で終わった。もちろん今回も団体の金メダルを目指す。

懸念材料としては同時期にアジア競技大会が行われることだ。アジア大会は中国で開催されることもあり、エースZHANG Boheng、平行棒チャンピオンのZOU Jingyuanを始めとする戦力の強いメンバーが選出された。もちろん世界選手権に選出されたメンバーも種目別チャンピオンや有力な若手選手を含むかなり強力な布陣であることに違いはないが、五輪前に中国の所謂ベストメンバーと戦うことは難しくなった。それはともかく是非ベストを尽くして欲しい。

今回、橋本大輝選手を除いて全員前年の代表とは違うメンバーが選出された。珍しいことだがこれは日本男子の層の厚さを意味している。誰が代表であっても日本は強いということをぜひ見せつけてほしい。

では代表に選ばれたメンバーの紹介と団体戦エントリーの予想、そして個人種目について予想してみる。(敬称略)

【代表選手の紹介】

橋本大輝選手

順天堂大学所属の22才で、日本代表のエース。東京オリンピック個人総合金メダリストであり、前年リバプールの世界選手権でも個人総合で金メダルを獲得。長身を生かしたダイナミックな体操が特長ですが、つま先まで意識された姿勢の美しい体操も大きな特徴の一つといえます。Dスコアが高い演技構成ですがEスコアでも稼ぐことのできる隙のない演技を実施する選手。近年少し波がある傾向ですが、ここぞというときにしっかり実力を発揮することができる選手で、ハマったときの爆発力は凄まじいものがあり他を寄せ付けません。

得意種目はゆか、あん馬跳馬、鉄棒。ただつり輪と平行棒もかなり強いので穴はありません。特に鉄棒はDスコア6.7という訳のわからない爆高構成を個人総合で実施しています。今年は特にあん馬に力を入れているようなので、こちらは8月に行われたユニバーシティゲームズの団体決勝(予選)のあん馬の演技です。

開脚旋回と閉脚旋回のバランスがとても良いし、脚の長さを存分に活かした開脚旋回が最高です。元々ロシアン転向の技を苦手としており試合でも苦戦していましたが、6技目に実施しているウグォニアンを始め安定した実施になっています。

 

萱和磨選手

セントラルスポーツ所属の26才で今チームのキャプテン。世界選手権は2年ぶりの出場で今回で5回目の出場。出場すれば必ず結果を残すという強さがあります。その強さの秘訣はなんといっても並ではない安定感(波と並をかけてます)。国内国外、器具のメーカー、試合スケジュール等にまったく左右されることなくいつも通りの演技をどんなときでも見せてくれるとても頼もしい選手です。個性のある技を実施するというタイプではないので、この強さが素人目にはわかりづらいのが悩ましいところ。

得意種目はあん馬と平行棒。どちらも過去に世界選手権でメダルを獲得しています。こちらは2022年にスイスで行われたメモリアルアーサーガンダー杯の平行棒の演技です。

全体的にキレのある軽やかな演技。5技目に実施している棒下宙返りの実施がとても好きです。終末技は大きく1歩出てしまいましたが、脚をしっかり閉じた前方ダブルハーフがとても良いです。

 

三輪哲平選手

セントラルスポーツ所属の22才で世界選手権は初出場。東京五輪では候補選手になるなどいつも代表に近い位置にいた選手ですが、今回見事個人総合で代表入りを果たしました。元々波の激しい選手で、好調時と不調時で出る点数の差が大きかったりするところもあったのですが、社会人になり競技に専念できるようになったことでその差を埋められるようになったとのことです。体線が綺麗でEスコアが出やすいタイプの演技をする選手ですが、試合によっては普段実施しない技や演技構成を披露するので比較的器用な選手という印象があります。

得意種目は跳馬、平行棒、鉄棒。中でも跳馬は最高難度6.0を実施することができます。こちらは2022年全日本団体選手権の跳馬の演技。

このときは6種目出場しておりそれだけでもかなりハードなのに、なんとDスコア6.0のヨネクラを挑んで成功させました。着手後、突き上げてからの高さが尋常じゃないですね。スロー映像しかないのが残念ですが、通常再生速度だとひねりの速さがとんでもないです。

 

千葉健太選手

セントラルスポーツ所属の27才でこちらも初出場。全日本選手権予選をトップで通過した2017年から6年の歳月が経ち、ようやく代表入りとなりました。以前にこちらの記事(千葉健太選手の代表選出 - 一人静かに内省す)でも触れましたが、27才という年齢はベテランといってもおかしくないですが国内選考会で尻上がりに得点を積み、代表をもぎ取る姿は清々しかったです。体線が綺麗で彼もEスコアで点数を稼ぐタイプ。美しさにキレも備わった体操を行っているからか、目標としている後輩をたくさん見かけます。

得意種目はあん馬、つり輪、平行棒。あん馬とつり輪を高いレベルで両立できる選手は限られているのでとても助かる存在です。こちらは2020年に行われた全日本シニア選手権でのあん馬の演技。

本当は今年のNHK杯の演技を載せたかったですが素材がありませんでした。悲しい。少し古い映像ですが、交差技が逆交差から正交差になった箇所以外は同じ演技構成。まっすぐな姿勢でスピードのある旋回、最高ですね。個人的にはトンフェイの実施が好きです。今年のNHK杯は全体的にもっと良い実施だったんですけどね。こういうのそろそろなんとかなりませんかね。

 

南一輝選手

エムズスポーツクラブ所属の23才。世界選手権は2回目の出場ですが、団体戦は初出場。ゆかのスペシャリストですが近年は跳馬も強化しており、選考会の種目別選手権で見事優勝を果たし貢献度枠で代表入り。ゆかに関しては日本選手に不利なルール改正を物ともせず、その強さは国内では圧倒的で現在種目別選手権5連覇中。跳馬も高い難度の技を安定して実施する頼もしさがあります。

得意種目はゆか、跳馬。こちらは3月にドーハで行われたワールドカップ種目別決勝、ゆかの演技。

なんと1技目に後方2回宙返り3回半ひねりを行い、成功させました。のちに"ミナミ"というH難度の技名として認定されました。この技にも度肝抜かれましたが、2技目のシライ2の安定感も正直異常なレベルです。怪我のリスクが少ないということで前向き着地の実施が多いですが、安定した実施です。

 

団体戦のメンバー予想】

ゆか▷橋本、三輪、南

南と橋本は確定で3人目はDスコアも似通っていてそこまで大きな差はないので正直誰でもいいかなという印象だけど、予選のエントリー(後述)と他種目とのバランスを考えて三輪に。トップバッターは経験者の橋本と予想。

あん馬▷萱、橋本、千葉

この3人は自信があるし出場順も多分この順番だと思う。トップバッターはもちろん萱。

つり輪▷萱、橋本、千葉

あん馬と同じメンツ。千葉は確定として、萱、橋本、三輪で少し迷ったけど橋本の最近の点の出方を考えると採用したい。もう一人は出場種目のバランスで萱に。

跳馬▷南、三輪、橋本

5.6を安定して跳べる3人。(三輪は6.0も行けるがさすがにやらないと思う)なるべく橋本に休憩時間を与えたいのでこの順に。

平行棒▷萱、三輪、橋本

萱と千葉で若干迷った。この二人に関してはそのときの調子で決める可能性もあるかな。

鉄棒▷萱、三輪、橋本

萱と千葉が迷ったけど安定感の萱を採用したい。ラストはもちろん橋本。

というわけで橋本は6種目出場と予想。今回のメンバーで休めるとしたら平行棒なんだけど、橋本のここ一番の平行棒はかなり点が伸びる印象があるので橋本を採用とした。ただ千葉が採用される可能性も十分あるので、平行棒のメンツとゆかの3人目はそのときの調子と橋本の様子で変わってくるのかな。リジョンソン、リューキンは抜いて6種目か、ベストの演技構成5種目か、果たして采配はいかに。

戦略としてはゆかで南・橋本、あん馬の3人で確実に点数を稼ぐ、つり輪で極力ミスを抑えて着地を止める、跳馬で実施をまとめて平行棒もミスを抑えて着地を止める、橋本の鉄棒で最後決めるというように動けば理想。ゆかあん馬は中国より力が強いが、ミスが出にくいといわれるつり輪平行棒は中国より力が弱い(特につり輪)のでなるべくミスを少なくして着地減点も少なくしたい。仮に5ローテ目の平行棒終了時点でイーブンであれば橋本の演技で逆転という可能性も全然あるから、そこまでモチベーション高く試合を運ぶことが出来ればいいなと個人的に思っている。

 

【個人種目の予想】

個人総合枠で選ばれた萱と三輪、貢献度枠で選ばれた千葉の誰が個人総合にエントリーされるかが最大の悩みどころ。選考会の結果を重視するのであれば萱だが、昨年貢献度枠で選出された谷川航が個人総合にエントリーして銅メダルを獲得していることを考えると、一概にそういったエントリーにはなるわけではないと考えられる。事前合宿の報道で団体予選の全種目、トップバッターは萱が任命されたとあった。全6種目なのか萱が出場する種目の全種目なのかが判断しかねるが全6種目と考えるのが自然だと思う。千葉がゆかの演技をしている映像を見たので、予選は三輪がゆか以外の5種目、千葉が跳馬以外の5種目に出場すると予想される。せっかくの世界の舞台なので三輪がゆかも出場して橋本・萱・三輪で6種目出場して争わせるというのもアリだとは思うが、万が一橋本がその中で3位になるケースもあり得なくはないのでそれを避けるためだろうか。

と、始めは考えていたが世界体操2023の選手名鑑(選手名鑑|世界体操2023|テレビ朝日)で各人の目標を確認するとどうやら萱の個人総合出場は確定のよう。三輪も「個人金メダル」とあるがおそらく個人総合を指していると思われるので橋本を含めて3人エントリーする方向のようだ。となると千葉はゆかと跳馬以外の種目で予選出場ということか。選考会で86点オーバーを叩き出した千葉が個人総合のエントリーに外れることになったわけだが、正直非常に勿体無い。

個人総合自体は橋本一強と思われる。ただ最大のライバルである中国のZHANG Bohengが出場しないことで彼のモチベーションがどう左右されるかが若干の気がかり。それ以前にその前に行われる団体戦の内容も影響されるとは思うので、モチベーションが高い状態で試合に臨めれば全く問題ないと勝手に想像している。日本選手でワンツーフィニッシュも十分可能性があると思う。

種目別は南のゆか、橋本の鉄棒が金メダルのとれる種目といえる。ゆかはルールの影響なのか国際大会でも結構荒れるイメージがあるので気は抜けないが、金メダルを十分とれる実力を持っているので白井健三以来の快挙を期待したい。橋本の鉄棒は昨年覇者のアメリカ・マローンが怪我で欠場しているし金メダルをとれる可能性がかなり高い。合宿の試技会の様子が報道された際、開脚トカチェフを繋げられていなかったのが若干気になったが実力的には金メダル最右翼なので期待したい。

それ以外だと橋本のゆかあん馬、萱のあん馬がメダル候補か。あと千葉のあん馬つり輪、三輪の鉄棒がどこまでいけるか…といったところだろうか。いずれにせよ萱は何かすら個人のメダルを持って帰ってくると思う。

日本・中国・イギリスは前年の世界選手権でパリ五輪出場を決めているが、それ以外の国、選手はその出場権もかかっており、そしてそれを大きく左右するのが予選。というわけで種目別については予選でかなり厳しい戦いになると予想される。ところで予選は配信はしていただけるのだろうか。去年のようなことはもうこりごりなので、頼みますよFIG。

 

パリ五輪の前哨戦として挑む今大会、新鮮なメンバーを含んだ強力な布陣でどのような戦いになるでしょうか。とても楽しみにしています。体操ニッポンガンバです!!