一人静かに内省す

日本男子を中心に体操競技応援中!体操競技について思いのまま綴っています

谷川航選手の体操『つり輪』

f:id:mariyan_4020:20231122002214j:image

密かに谷川航選手の各種目の魅力と強さを記事としてしたためていたら、本人が有料アプリで各6種目の目指している体操についてシリーズ化して投稿し始めてしまった。偶然ではあるものの、たとえ本人が目指している体操があったとしても私が感じている航選手への魅力や好きなところというのは別のベクトルで存在していると認識しているので、本人の声は敢えて気にしないスタンスでいる。

 

個人総合が強い選手で共通しているのがつり輪で爆発的な力を出せる選手がいないことである。個人総合を戦う上でつり輪を強くしすぎると他の種目に影響が出やすい、という旨の発言をこれまでに何度かトップ選手が口にしているのを耳にしたことがある。現在日本の個人総合トップ選手の中でつり輪が強い選手はそこそこいるが、世界選手権やオリンピックでメダルをとれるレベルの選手ははっきりいっていない。今年現役引退を表明した山室光史さんがつり輪で種目別のメダルをとったことがあるが、2011年まで遡らなくはならない。それ以前となるとなんと1985年まで遡る。そうなってくると日本は他の種目に比べるとつり輪が弱いといえる。

元来日本は個人総合に注力しており、実際それが功を奏しているのか数々の世界大会で優秀な成績を収めているわけだが、団体戦ではどうしてもつり輪が足枷になる傾向にある。そういうこともあってか代表選考会で所謂「貢献度枠」を争う時、必ずと言っていいほどつり輪が強い選手が有利になる。谷川航選手が代表選考会の貢献度枠でいつも異常な強さを発揮する理由はいくつかあるが、その理由の一つがつり輪の強さである。今年は体調不良の影響でDスコアを落としていたこと等で点数が伸び悩み選考会では落選してしまったが、団体戦では必ずエントリーされるほど彼のつり輪は日本のトップ選手の中では比較的強いとされている。

航選手のつり輪の強さが最もわかりやすいのが力技である。その中でも特に私が好きなのが中水平。FIGの世界選手権予選動画を2017〜2022年、4本連続で見てみよう。

まずは2017年。

続いて2018年。

続いて2019年。

続いて2022年。

さすが同じ団体が出している動画だけあって、左右差はあるもののほぼ同じ画角で撮影されていて大変比較しやすい。ちなみに2022年は現ルールへの変更後の演技のため難度が下がった上水平が閉脚になった箇所以外は、持ち込み方や順番が少し違うだけで基本的に同じような演技構成となっている。

徹底して必ず最初に中水平を2技実施している。素人目にもわかりやすく肩の位置が徐々に下がっており、現ルールではつり輪を持った手の高さが理想(減点なし)となっているがそれに限りなく近い実施となっている。つり輪は一朝一夕で姿勢を直せるほど甘い種目ではなく、その技の難度が高いほど修正に多大な時間を要する種目らしいが、現にここまで姿勢を修正するのに丸5年経過している。おそらく毎日少しずつ積み上げたものがこのような映像として表れているのだろうと思うと胸が熱くなる。というかこうやって過去の演技と比較できることがものすごく幸せなことだよなあとしみじみしてしまう。

2022年の実施で、9技目の後ろ振り上がり倒立で大きく動いてしまいロープが大きく揺れている状態で終末技に向かっているが、着地をしっかり止めている。このあたりの体の制御の仕方とかはさすがというか彼の真骨頂といえる動きなんだろうなと思う。映像はないが団体決勝も着地を止めて予選よりも高い得点を出している。

私が航選手のつり輪が強いなと率直に感じた演技が東京五輪の団体決勝の演技である。

原田コーチの噛み締めるようなガッツポーズにグッとくる映像。こちらDスコア6.0Eスコア8.5決定点14.500で、国内大会と比較して高い得点を出したのだが、ライバルの中国・ROCと比較するとどうしても劣ってしまうからか、実際の放送では軽く流されてしまった。こちらの映像には映っていないが、3Dカメラのような映像で360°の方向から中水平の姿勢を映すシーンがあったのだが、その映像では姿勢の正しさがとてもわかりやすかったので感心した記憶がある。

そして何より紹介したいのがこちらの映像。これは2020年全日本シニアの演技。

つり輪の真正面から撮影された大胆すぎる映像。はっきり言ってつり輪の演技を見るには適していない画角だが、中水平の角度を見る上ではこの上ない画角。解説の水鳥監督の感嘆に思わず頷いてしまうような演技だ。

 

ところで中水平や十字懸垂で2秒間の静止後、首を上にグッと上げる仕草を行っている。得点に直接結びつく動きではなく静止時間をアピールする一種の表現に過ぎないが、航選手に限らず多くの選手が実施している。これは内村航平さんがやっていた表現で、彼が全盛期として活躍していた時期にジュニアだった航選手らの世代はこぞって真似していたそうだが、そもそもこれは内村さんが冨田洋之さんの動きを真似して生まれたものだそう。体操界の継承、尊いねぇ……