一人静かに内省す

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パリオリンピック選考会の展望《貢献度枠編》

前回に引き続き全日本選手権の結果を受けて選考会の展望を考える。今回は貢献度枠について。(良かったら過去に起こした代表選考ルールについての記事日本体操協会が公表している代表選考方法を一読してください。)

個人総合編でも話したように日本代表は個人総合枠と貢献度枠に大別されるが、個人総合枠は最終順位が条件になるのに対し、貢献度枠は多少順位も加味されるが基本的には対象の4試合で出した得点がダイレクトに反映される。対象の4試合のうち得点の高い3試合の得点の平均値から貢献点が高い選手が選ばれるが、NHK杯進出者のスコアを一通り確認して感じたことがこれだ。

 

 

 

 

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さっぱりわからない。

湯川先生の台詞を拝借したが、正直これに尽きる。

 

 

昨年の選考会同様残り2試合で決定する、という点で相違はないが、昨年までは個人総合枠の代表選手が先に決まっておりターゲットスコアが出ていたのだが、今回はそのどちらも不確定な状態だ。今回の選考ルールが公表された時点で想定できたことではあるが、いざリザルトを広げてみたらまあ、わからない。しかし現時点で確定していることが二つある。

①橋本大輝選手が代表に内定していること

全日本選手権の2試合のうち高い方のスコアは貢献度枠計算の対象になること

以上だ。この確定要素二つを引っ提げて6種目を一つずつ見ていく。敬称略。

現時点で全日本選手権の予選と決勝のスコアしか頼りになるものがないので、この2試合(1日目と2日目)のそれぞれの得点とその平均値、そしてそのうち貢献度計算の対象となる高い方の得点を並べてみた。橋本については参考スコアも並べている。順位は全日本選手権の順位で、「種」は種目別枠の選手。

個人総合枠の選手は決まっていないが、内定している橋本以外は現状2位の岡、3位の萱を基準にせざるを得ない。ただ前回の記事でも書いたように4位の杉野、5位の土井も個人総合枠に入る可能性は十分あるので、その2名も含めて大体のターゲットスコアを見定めていく。

 

 

ゆか

まず橋本と個人総合枠候補(仮)の4名の点数がこちら。

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貢献度枠は2人なので、橋本を含めた個人総合枠の3人のうち一番低いスコア、もしくは下から2番目のスコアの得点を超えることができれば貢献点を稼ぐことができる。例えば上位3人のゆかで比較した場合は岡の14.517、萱の13.783がその対象となる。岡の14.517はかなり高いスコアなので貢献点を稼ぐのは非常に難しい。そうなるとターゲットスコアは萱の13.783となる。ただ萱は1日目に中過失を出して平均値を下げているので、実際のターゲットスコアはもう少し上がる可能性が高い。

土井は本来もう少し点を出せる力があるが、足の怪我の影響で全日本選手権は点が伸びず、14.200が得点に加算されることが確定している。ただNHK杯で大きく伸ばしてくる可能性が高いため、ちょっとこの辺は読めない。

続いて他の選手を含めた平均値と高い方のスコアの一覧(各得点が高い順)がこちら。

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まるで萱が下位に位置しているように見えるが、よく見ると点差はあまりない。現行ルールでゆかは高得点をとるのが難しく、どの選手も似たようなDスコアで争っている。結果的にEスコア勝負になりつつあり、Eスコアは生き物なのでその日の選手の状態や試合環境によるところがある。要するにゆかで貢献度を大きく稼ぐこと自体そもそも難しいのだ。なので青木と松見が比較的高いスコアを出しているが、他の種目に比べると貢献点はどうしても低くなる。注目はやはり土井で、現在の得点からどこまで伸ばしてくるかが大きなポイントになってくる。

ゆかに関していえることは、ゆか単体で貢献度を稼ぐのは難しいので少しでもEスコアの減点を減らして0.1を拾うことだ。この細かい0.1が後々必ず効いてくる。

 

あん馬

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橋本の参考スコアが本人の本来出せる得点より低いのでどう影響するか少し心配していたが、高得点を連発したことで大きく上回ったので杞憂になりそう。岡が2日目に落下しており大きく平均点を落としているのでターゲットスコアが読みづらい。土井のスコアも加味すると14.3あたりになるだろうか。

そして他の選手のスコアはこちら。

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個人総合上位のメンツを見て予想できてはいたが、あん馬のターゲットスコアはかなり高く、貢献点を稼ぐのがかなり難しい。昨年と一昨年の選考会では個人総合枠にあん馬を苦手としている選手が入っていたので、毎回あん馬が得意な選手が有利になっていた。ところが今回は見事にあん馬が得意な選手が並んでしまったため、実質あん馬だけで貢献度を稼ぐのは難しくなりそうだ。津村が高得点を出しているがあん馬以外でほとんど貢献点を稼げていないので、かなり厳しい立場となっている。その他上位の選手についても同じ印象で、仮に個人総合枠に萱と杉野が入れば、貢献度枠が入り込む隙がかなり狭くなると思われる。

ただ種目の特性上ミスが起きやすい種目ということもあり、波乱が起きる可能性もある。現状いえることとしては、あん馬に関してもゆか同様0.1を少しでも拾うことが大事で、あん馬一本ではなく他の種目でも貢献点を稼ぐことが必須になる。

 

つり輪

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上位3人で照らし合わせると、岡と萱はつり輪が得意なのでターゲットスコアが橋本になっている。橋本は現時点で参考スコアを上回っており、つり輪はミスが出にくい種目なので14.1前後がターゲットスコアになるかと思われる。ただ杉野もしくは土井が入ってくると一気に下振れし、1点ほど点数が落ちる計算になる。誰が個人総合枠になるかで一気に局面が変わる種目だ。

そして他の選手のスコアがこちら。

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繰り返すがつり輪はミスが出にくい種目なので、おそらく同じようなスコアかもしくはもう少し高いスコアでNHK杯も展開されると思われる。注目は金田。個人総合枠としてNHK杯に出場するが、つり輪で最も高いスコアをとっている現状において、最も貢献点を稼いでいる。種目別枠の選手も高いスコアを出しているが、金田はゆかでも点数を稼いでいる以上、最低でも金田を上回らなければならないのでかなり厳しい立ち位置といえる。

そして谷川航、春木、上山がそれに次ぐスコアで得点を稼いでいる。この3人は後述する跳馬でも貢献点を稼いでいるので、拮抗する間柄になっている。

杉野か土井が入ってくれば一気に稼げることを踏まえると、やはりつり輪が得意な選手は今回も比較的有利になっている。Eスコアが劇的に伸びる種目ではないので着地が勝負の決め手になってくると思われる。杉野、土井が入ってくる可能性も考えると、全体の順位が下位であっても少しでも得点を稼ぐことが重要だといえる。

 

跳馬

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橋本の参考スコアが着ピタした去年の世界選手権個人総合決勝のスコアになっており、こんな得点そうそう出ないだろうと思っていたがしっかり捉えている。凄い。

一方、岡と萱は跳馬であまり点が取れていない。岡はD5.2の跳躍なのと、萱は跳馬だけは少し波がある。二人とも14.1〜3あたりがターゲットスコアになりそうで、現状跳馬が最も貢献点を稼ぎやすい種目といえる。ただ杉野、土井はD5.6をしっかり成功させているので、この二人が入ってくると少し点数が稼ぎにくくなる。

そして他の選手のスコアがこちら。

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少々驚いたが、種目別枠の選手がいずれも高得点を稼いでおり上位に位置している。岡と萱は6種目高いレベルにあるので、突出した高得点を出せる種目を持っている選手が有利になりそうなのだが、その中でも跳馬はかなり有利に働く可能性がある。種目別枠の選手全員が高得点を出しており、その中で最も点を稼いでいるのが岩澤。 ただあと2試合あるので種目別枠の他の選手も十分チャンスはある。

そして跳馬は現状2名の枠がある状態なのでもう1名跳馬で貢献点を稼ぐとなると、個人総合上位の三輪が同様に高得点を出しており、三輪はさらにゆか、つり輪、平行棒でも上乗せできる可能性があるので有利なポジションだ。

高い得点の表の春木より上の選手がD5.6の跳躍を安定して跳んでおり、貢献度を稼げる選手といえる。注目は上山と谷川航。上山はD6.0のヨネクラを成功させれば一気に点を稼いでくる可能性がある。そして谷川航は膝の怪我の影響で若干出遅れているが、今まで重要な局面で何度もD6.0のリセグァン2を決めてきた経験があるので、こちらも一気に高得点を稼ぐ可能性がある。個人的には無理をしてほしくはない思いがある一方、オリンピックが絡めば選手は信じられない力を出すし、絶対に決めなければならない場面での谷川航の跳馬は誰よりも強いとも感じている。

杉野や土井が個人総合枠になっても貢献点は稼げる余地が少しあるので、注目度の高い種目のひとつといえる。

 

平行棒

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上位3人でいえば岡の平均点が一番低いが、1日目で器具上落下したことが起因している。本来であれば3人の中で最も高い得点を出せる選手なので、NHK杯でもっと得点が上がる可能性が高い。なのでターゲットスコアは橋本・萱の14.8〜9くらいになると予想。仮に土井が入ってくれば土井のスコアがターゲットになって若干下がるだろうし、杉野が入ってくるともっと下がることになり、少し読みづらい種目だ。

そして他の選手のスコアがこちら。

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平行棒は3人とも得意種目なので貢献点はかなり稼ぎにくい。現状貢献度を稼げているのが田中、三輪、谷川航と非常に狭き門且つ貢献点はかなり小さい。ただ前述したように杉野が入ってくると一気に多くの選手が貢献点を稼げる計算にはなるが、平行棒単体で貢献度を狙っている選手はほぼおらず、複数種目での貢献度稼ぎになる。前述した3人は他の種目でも貢献点をかなり稼げそうなので、実質この3人がどれだけ点を積めるかが焦点になりそう。それ以外の選手も含め、ゆか同様少しでも0.1を拾うことが重要だ。

 

鉄棒

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橋本が2日目にミスを出したので平均値が若干低いが参考スコアがあるので一旦スルー。そして岡も2日目にミスが出たことで平均値を落としている。ただ元々高いスコアを出せる選手なので、NHK杯では上がる可能性がある。ターゲットスコアはおそらく萱の14点。杉野と土井も高い得点を出しているので、萱が個人総合枠に入るかどうかで局面が変わる。

そして他の選手のスコアがこちら。

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上位全員レベルが高いため貢献点を稼ぐのは結構難しい。というか萱をボーダーに二極化している印象。田中と杉野が15点前後を出しているので、個人総合枠が萱になると一気に貢献点を稼げる計算になる。また、土井は決勝でミスしていることで平均値が下がっているが、高い得点を出せる力はあるので同じように貢献点を稼げる。川上も高い得点を出しているが、前述した3人より下回っており、他の種目の貢献点も踏まえると貢献度枠としては少し厳しい立場となっている。

鉄棒は最終種目で、種目の特性上ミスが起きやすい種目な上、上位選手の得点が貢献度に大きく影響すると思われる。これまでオリンピック選考会の鉄棒では何かと波乱が起きやすく、最後の最後まで展開が読めないことが多いため最も注目したい種目だ。おそらく橋本がトリを務めることになると思うので、NHK杯1日目を2位で通過した選手の鉄棒のスコアが出た時点で代表が決まることになると思う。

 

 

現状の全体的な印象としては複数種目で貢献度を稼ぐ選手、一つの種目で貢献度を稼ぐ選手に大別されている。種目の特性、個人総合上位選手の得意種目、貢献度を稼ぎやすい種目を加味すると、現時点で貢献度を稼げる選手はある程度絞られる。ただ結局のところ個人総合枠が誰になるか、その2名がどういったスコアを出すか、さらには10位以内に誰が入ってくるかで一気に戦況が変化することは間違いない。

岡は個人総合力は非常に高いがまだ波があるのが否めず、得意種目でミスが出れば貢献点に大きく影響する。萱は個人総合枠に入る可能性が高く安定感もかなり高いが、ターゲットスコアになりそうな種目が多く、わずかな点数の差で貢献点に影響が出る可能性が高い。杉野は個人総合枠に入ってくると先の2名に比べて一気に下振れする種目が出てくるし、土井も岡同様、得意種目のスコアの出方が読めない。

そして貢献度枠で有利になりそうな田中、三輪が10位以内をキープできるか、現状11位以下で貢献点を多く稼ぎそうな選手が10位以内に入ってくるかどうかも焦点になる。

 

とどのつまり、

 

 

 

 

 

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さっぱりわからない。

 

貢献度枠は本人の持ち前の実力、安定感や爆発力に加え「運」という要素も関わってくるため、個人総合枠以上に予想が大変難しい。ただどの選手にもいえることは得意種目で確実に点を稼ぎ、それ以外の種目でも可能な限り0.1を拾う、つまりミスを最小限に抑えることだ。選考会が始まる前からずっと言い続けていることだが、結局ここに帰結する。

それとNHK杯2日目は間違いなくカオスになること必至で、2位の選手の鉄棒のスコアが出た途端、代表争いの計算が確定して現場はざわつくであろう。ただ最後の演技を務めるであろう橋本大輝選手の鉄棒の演技は、体操ファンとしてしっかりと見届けたい。

(ちなみにガリレオシリーズは映画しか見たことがありません。)