先に申し上げるが私は谷川航選手の6種目の中でゆかが最も好きな種目である。
実のところ東京オリンピックまではあまりゆかという種目を好んでいなかった。その理由の一つが技が区別しづらいということだ。
主に日本選手の演技を見ることが多いが、日本人は小柄で細身の選手が多く欧米の選手等に比べると潜在的なパワーや脚力が低いため「ひねり技」で点を稼ぐ選手が多い。ひねりは全ての種目に必要とする要素だが中でもゆかはそれを最も発揮しやすい種目と言える。これは私の動体視力の問題であるがひねり技ばかりが続くと何をやっているかわからなくなってしまうのだ。少し気を抜くと前方宙返りか後方宙返りなのかもわからなくなるような私にとって、後方の2回半ひねりなのか前方の2回ひねりなのかわからなくなることはわりと日常的である。今でこそ2回宙返り(いわゆるビッグタンブリング)が必須となったため多少見やすくはなったものの、未だに日本人選手はひねり技を中心に演技を構成するので観戦中に頭の中で彷徨ってしまうことは少なくない。ひねり技ももちろん技として見応えがあるが、やはりビッグタンブリングは華があり素人的に見ていてシンプルに楽しい。そのせいなのか近年のルール改正はビッグタンブリングを迎合する傾向がある。
谷川航選手は日本選手の中で珍しくビッグタンブリングを得意とする選手である。他より跳躍力が高いことがその理由の一つではあると思うが、持って生まれた筋肉の質や潜在的なパワーが他の日本選手と異なっているのだと思っている。
そんな谷川航選手の直近の演技内容が以下の動画である。
【速報】#NHK杯体操 男子個人総合
— NHKスポーツ (@nhk_sports) 2023年5月21日
谷川航選手がゆかでは1班トップ
現在4位で代表圏内に迫る
第1ローテーション終了時
4位 #谷川航 選手(ゆか)
14.066点 計181.830点
📺BS1でLIVE中!
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続いて全く同じ演技構成だが、こちらは2022年リバプールでの世界選手権の個人総合決勝の演技。
2つの動画を載せた意味は特にない。千駄ヶ谷で演技する谷川航選手とリバプールで演技する谷川航選手を並べたかっただけである。動画は多いに越したことがない。
2コース目のかかえ込み新月面、3コース目の前方屈身2回宙返り、終末技のダイビングダブルハーフの計3回ビッグタンブリングを実施している。2回実施する選手は珍しくないが3回実施する選手は日本選手としてはかなり珍しい。
特に終末技は後方の3回ひねりを実施する選手が大半を占める中、ダイビングダブルハーフはおそらく弟の翔選手と彼くらいしか実施しているのを見たことがない。昨年の種目別選手権までは3回ひねりを行っていたが、終末技の着地が止まりにくいという理由から同年の夏頃にこの技の練習を始めたらしく、あっという間に習得してしまったらしい。昨今はルールによって演技構成が画一化しやすいゆかだが、この技は彼の個性だと思っているし、全種目の技の中でゆかのダイビングダブルハーフが私の最も好きな技である。着地王子といわれているだけあって着地は強い選手ではあるが、この技の着地の成功率は凄まじく、世界選手権以降複数の試合を観戦しているが動いているのを見たことがないくらい安定している。むしろなんで今までやってこなかったのかと思うレベルである。
前年よりルール改正の影響でひねり技と伸身前宙の組み合わせを行う選手が激増したが、伸身前宙はB難度ということもあってか演技後半に実施する選手が多い。そんな中航選手は1コース目にそれを実施する。ルール改正前の演技構成との兼ね合いだとは思うが、体力に余裕がある1コース目に実施するので跳躍にとても余裕があり、フワッと浮き上がるような実施がとても良い。これも好き。
4コースめのサイドラインで実施する2回ひねり以外、後方宙返りの技の前にバク転をはさんでしっかり軸が真っ直ぐの状態で後方宙返りを実施するところも好き。グループⅠのマンナと倒立も好き。倒立の後のでんぐり返りも好き。というか正直全部好き。好きじゃない箇所が生まれる理由がない。正ローテでまわるときにこの演技で6種目のスタートを切るのがめちゃくちゃ楽しい。
それからリオルール時の2015年に行っていたこの演技構成も大好き。当時体操からは離れていたのでリアルタイムでは拝見していないがYouTubeで見つけてめちゃくちゃ気に入った。
目を見張るのはやはり2コース目の屈身のダイビングダブルからの組み合わせである。とてつもなく高い跳躍からひねり技に組み合わせるのがめちゃくちゃ凄い。当時18歳で元気いっぱいのゆかの演技、最高だ。東京ルールになり屈身ダイビングダブルがE難度からD難度(抱え込みと同難度なのはなぜ?)に、A難度の技との組み合わせ加点が消滅したためこの組み合わせは2016年で見納めになってしまった。悲しすぎる。ただ次のルール改正で屈身ダイビングダブルがE難度に戻る可能性があるようなのでどう対応するのかすでに楽しみにしてるまである。
そして最後にこちらの動画。
こちらは東京ルールに改正された初年の2017年のワールドカップの演技。難度が格下げされたにもかかわらず屈身のダイビングダブルは残したまま、当時格上げした前方2回宙返りシリーズを2回実施し、ひねり技のシリーズを全て後半に盛り込むという不思議な構成。まだ試行錯誤の段階だったことが伺える。そんな試行錯誤やルール改正への対応を経て現在のゆかの構成に落ち着いている。
本人いわく今の演技構成はルールに対応できているとはいえない、と謙虚な姿勢でいるが個人的には難度が落ちた分、余裕のある跳躍が見られるのがとても楽しい。今シーズンは体調不良の影響もあり従来通りの構成を実施していたが、伸身のビッグタンブリングの練習をしている旨の発言を聞いたことがあるので今後の演技構成も注目したいところである。