一人静かに内省す

日本男子を中心に体操競技応援中!体操競技について思いのまま綴っています

代表選手の選考ルール

今年は新型コロナウイルスの影響で昨年から延期されたアジア競技大会が行われる。アジア競技大会はいわばオリンピックのアジア大陸版といえる大会で、オリンピックを開催しない偶数年に4年に1度開催される。オリンピックでも採用されている各競技が同期間に実施され、体操競技も当然その対象である。アジア大陸限定の大会とはいえ各競技世界のトップ選手が出場するため地上波でも中継が行われる予定である。

アジア大会は9月中旬に実施されるが体操競技に関しては世界選手権が同時期に開催されるという懸念がある。そのため世界選手権代表を優先的に決定し実質そのメンバーに次ぐ選手が代表に選出される仕組みとなっている。世界選手権代表を除いたNHK杯上位4名とその4名と組み合わせてチーム得点が上昇する貢献点が高い選手が1名の計5名が選出される。

ところで世界選手権もアジア大会も当然候補選手(補欠)が帯同する。今回、開催時期が丸かぶりしているので世界選手権の候補選手がアジア大会の正選手として出場することは物理的に不可能であるため、それぞれ違うメンバーを選ばなければならない。協会が公表したルールで世界選手権の候補選手は「個人総合次点選手」と記載がある。世界選手権の代表にNHK杯4位の千葉健太選手が選出されたので次点は5位の川上翔平選手となる。ただルールにはこのような但し書きがある。

 

「※候補選手選出はアジア競技大会日本代表選手選考を考慮して決定する」

この文言をどう捉えるかにもよるが、アジア大会の代表を先に決定し次点の選手を候補選手として選出するとも解釈できる。そうなると対象はNHK杯9位の北園丈琉選手となる。

そしてもう一人候補と思われる選手がいた。種目別選手権で最後まで千葉選手と世界選手権の代表枠を争っていた谷川翔選手である。結果的に0.1にも満たない点差で代表は逃したが代表ラインの最も瀬戸際にいたのは彼であり候補選手として選出される可能性もあるのではと考えた。

種目別選手権終了後、世界選手権の代表発表はまもなく会場で行われたがアジア大会の代表発表は行われなかった。候補選手の選出に迷っていたのかシンプルに貢献枠の計算に時間がかかったかはわからない。翌日の昼頃アジア大会の選手が報道された。川上翔平選手、谷川航選手、谷川翔選手、北園丈琉選手、津村涼太選手の5名であった。おのずと世界選手権の候補選手は杉本海誉斗選手が選出されたということが判明した。

 

は???なぜ?

意味がわからなかった。以前私はこのようなツイートをしたが候補選手の選考基準に"明らかに"準拠しているとはいえないNHK杯6位の彼がなぜこの立場を担うかが理解できなかった。

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「精神的にキツい」というのは私の想像なので実際本人がどう捉えているかはわかりようがないが、正選手と比較して試合に出場できる可能性が低いことは変わらない。この選出について、しばらく考え2つの理由が思い浮かんだ。

(1)全日本選手権の予選からミスをしていないこと

全ての演技を網羅したわけではないが公表されているリザルトのEスコアを見る限り大過失はもちろん、中過失もなかったのではと考えられる。5試合計22演技行っていると思うがこれは凄まじいことである。NHK杯上位10名の中で3大会を通して大過失がないのは彼だけであり体操競技でミスがないことが如何に難しいかを証明しているし、ミスをしないことが世界大会では強く求められることを考えるとこちらの理由が思い付いた。

(2)マスメディアに対する忖度

ここでいうマスメディアとはTBSのことである。アジア大会はTBSで地上波放送される。中国で開催されるため時差も少なく、もしかすると夜中に行われる世界選手権よりも注目される可能性がある。具体的な内容は明言しないがそれを鑑みて代表選出をした可能性がある。選手の人生をも左右する日本代表選出にそんなことがあっていいのかと思うが、マスメディア無くしてマイナースポーツの魅力を認知してもらうのはかなり難しい。協会とテレビ局の力関係は所詮想像に過ぎないが層の厚い日本男子は多少の忖度があっても十分な実力があり、良い結果が出ることが予想されるのでこのような選考になっても不自然ではない。社会とはそういうものである。

これらの理由のいずれかなのか、はたまた総合したのか、それとも全く関係ない理由で決定したのかは定かではない。公表されることではないし、これだけ熟考したとはいえ正直どうでもいい。誰が代表になっても全力で応援するという姿勢は変わらないし多くの体操ファンも同じ思いなのではと考える。問題は協議して決定する手法の是非である。

前回の世界選手権の団体決勝が終わったあと、代表選出時期に疑義を唱える意見をいくつか目にした。選出時期が早いため代表決定後5ヶ月も間が空くことで選手の体調やピーキングに影響すること、早々に代表選手が決定することでライバル国に戦術を検討させる隙を与えることなどが懸念されていた。中には候補選手を多目に選出し直前の調子を見て決定する方法が提案されていたりした。私自身も悪くはないと思ったがこの手法は大きな欠点がある。何を基準に決定したかが絶対に明確にならないことである。

おそらく最終決定権を持つのは水鳥監督だが彼が私利私欲で決定するとは到底考えられないし、むしろ全幅の信頼を抱いている。ただ最終決定権とはあくまで対外的なものであると思われるし、もちろん実際に決定するのは監督だがそこに至るまでは多くの人間の意見を反映させることになる。そのプロセスの面倒さや最終的に全ての人間を納得させることの不可能さを考えると合理的とは言い難い。候補選手の決定ですら素人の私がこれだけ疑問に感じるのにそれが正選手となると同じ疑問を掲げる人間はどれくらい膨れ上がるだろうか。

協会が決めている現状の選考ルールは複雑すぎて理解しづらいが試合の得点のみで決定するというクリーンさは合理性が高く私個人としては強く支持している。某お家芸競技で世界大会に出場するために国内大会で結果を出したのに世界大会での実績がないことで選考に外れるというパラドックスが発生しているし、某陸上競技では過去に実績重視による選考ルールの是非がワイドショーのトップニュースで長々と報道されたこともある。

今回橋本大輝選手だけは実績で代表が内定したが、数ヶ月前の世界選手権の個人総合で金メダルを取ったという誰も文句のつけようのない実績である。これは想像だが来年のオリンピック選考はたとえ誰かが今回の世界選手権で金メダルを取ったとしても、ある程度有利なルールが適用されることは考えられるがおそらく内定されることはない。体操競技はそれくらい選考対象の試合結果を重視している。

首脳陣による協議での決定となると当然選手の調子や安定感を重視すると思うので実績はおそらく選考基準に関わってこないと思うが、明確でない選考はいらぬ軋轢を生むきっかけになる恐れがある。とはいえ選考時期が早すぎるという意見はその通りで、なるべく試合の直前に決める方がライバル国への牽制に繋がる。そうなると選考の第一関門であるインカレやジャパンオープンの開催時期も検討が必要となり、インカレは学生の長期休暇との兼ね合いもあるため変更は容易ではない。結局これらの懸念事項を踏まえて今の選考スケジュールに落ち着いたのではないかと考えられる。

何が言いたいかというと皆んなが納得する選考ルールって難しいねという話です。日本代表に選ばれた男女計24名の選手の健闘を陰ながらお祈りしています。